第4話  メアリ・タオとロイルの魔法使い

 その日もメアリ・タオは一人で遊んでいた。

 闇の神の役ばかりさせられるのなら、一人で遊んでいた方がマシだった。

 誰に似たのだろう……ここに住んでる誰とも似ていなかった。


 メアリ・タオは、泉を覗いてフゥっと溜息をついた。

 その泉の中に違う顔が映り込んできた。


「?」


 メアリ・タオは不思議に思って振り向くと、そこには見たこともない銀色の外套を着た背の高い男が立っていた。


「母ちゃんに叱られたのかぁ?お前みたいなチビが、溜息なんて生意気なんだよ」


 と言って、メアリ・タオの頭をコツンとゲンコツで叩いて来た。

 メアリ・タオは意味が分からない。

(「何で、知らない人にチビだと言われて、叩かれるんだろう?」)


「痛いよ~~」


 メアリ・タオは、痛さで潤んできた目で男を睨んでやった。

 男は、自分が少しピリピリとしてきたことを感じた。

 初めての感じである。


「タオには母ちゃんも、父ちゃんもいないモン。」  


「タオっていうのか!?お前」


「メアリ・タオ・ミラベルよ。」


「フ~~ん……悪かったな。メアリ・タオ、俺はシンヴァ・ロイル。ロイルの魔法使いだ。大地と風の使い手だ。上級だからな敬えよ。あっ!!チビのお前に言っても意味分かんないかぁ~~」


 シンヴァが高らかに笑うと、


「タオは7歳なの!!」


 メアリ・タオは、反撃した。

 シンヴァは驚いた。

 どう見ても、5歳児だ


(「これは……噂に聞く先祖返りって奴か?」)


 シンヴァは、銀の森で聞いている魔法使い家系の特徴を思い出した。

 先祖返りはロイルの神の血に近い家系に出ると言われる発育が遅い者達のことを指す。

 七か月半の月足らずで生まれ、育ちにくく、成長も遅い。

 だが、優れた魔法使いの要素を持っているのだ。

 それ故に、ロイルの姓を貰った魔法使いたちの成人は25歳とされていた。

 25歳までには成長も追いついているという事だ。


「おじちゃん、どうやって、この谷に入れたの!?ここにはあんまり入れないのよ?」


「おじ……?俺は、シンヴァ!!ロイルの魔法使いで結界師なの!!今回は、辺境を旅するのが趣味のあのジジィ……もとい、お偉い神官のお供で隠れ里みたいな所を探してったって訳。」


「おじちゃんの言ってること、分からないよ。」


 シンヴァはこの大きな、茶水晶の瞳をどこかで見た気がした。

 こんな風に真っすぐに見つめてくる瞳……

 考えてたら、今回の旅の連れとなった、神官に呼ばれた。


 上位の神官である彼は、ロイルの伝道に人生を捧げており、50代半ばでも独身で、人の住まぬような場所を選んでは足を運んでいた。

 そんな彼にも、どうしても行けない、入れないというような場所があるらしく、今回、結界を解くことに長けた魔法使いのシンヴァが旅の同行が求められた。


 そして、前から目を付けていたカルガの谷へ来ることが出来たのだ。


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