ーーメアリ・タオ、七歳ーー

第3話  カルガ谷のメアリ・タオ

「今から、光の魔女ごっこをやるよ~やる子はあるまれ~」


大きな声で4人の子供が集まった。

声をかけたのは、一番年上のもうすぐ8歳になるメアリ・ウァムだった。

茶色の巻き毛がかわいい子だ。


「光の神は、イアンね~」


「おう~」


イアンと呼ばれた子は、金髪と銀髪が混じった変わった色合いの髪をした7歳の男の子だった。


「火の精霊はメアリ・マットで、水の精霊がグレンね。」


金髪のメアリ・ウァムより少し、小さな女の子と、その子によく似た男の子が頷いた。


メアリ・タオはワクワクしていた。

今日こそは、光の魔女の役が来るかもしれないと……


「魔女は、あたしでタオが闇の神……ねっ?」


だが、いつもの通り光の魔女の役は、メアリ・ウァムが自分でやると言い張りメアリ・タオの役どころはいつも、闇の神なのだ。


「タオだって、たまには光の魔女の役がやりたいよ~」


今日は、珍しく反抗してみた。


「おだまり!!よそ者のタオのくせに。チビッ子タオ、あんたの赤茶の髪なんて、この辺では見ないんだから、あんたの母さんが外の世界で、作ってきた子なんだから。亡くなった婆ちゃんが許しても、うちらは許してないよ。家の納屋で寝泊まりさせてるの、有難く思いなさいよね」


メアリ・タオはシュンとして肩を落とした。


メアリ・タオとメアリ・ウァム、メアリ・マットは同じ年だった。

この年に生まれた女の子にはみんな、メアリと付けるように、村の占い師でもあったタオと、ウァムの祖母が決めたのだ。

それで、ウァム(1)マット(2)タオ(3)なんて古代レトア語の番号が名前についていた。


ここは山間の小国セルオーネのさらに辺境地、カルガ谷。

谷には結界でも張ってあるように、他所者を嫌った。

出ていくことは出来ても、戻って来ることは稀だった。


メアリ・タオの母は、9年前に谷に迷い込んだ旅人を追って谷を出て行った。

7年前に生まれたばかりのタオを連れ帰って、すぐに亡くなった。

何も言い残さなかったので、タオは自分の父のことは何も知らない。

母の母だという婆ちゃんに育てられたが、半年前に死んでしまった。


一人ぼっちになったタオは、従姉のメアリ・ウァムの家の納屋で寝起きするようになった。

食事は一日に二回、パンと薄いスープを与えられた。

メアリ・タオの発育は同年代の子らより遅かった。

従姉のウァムが発育が良いのに比べて、タオは五歳前後にしか見えなかった。


「図々しいタオには、闇の神がお似合いね」


メアリ・ウァムの言葉にみんなが笑った。


光の魔女が火の精霊と水の精霊を従えて、光の神を召喚した。

そして人々を苦しめていた闇の神を天界に還したというおとぎ話が世間に広まって、20年は経っていた。


この話は、谷に迷い込んだ吟遊詩人によって、村人にもたらされて、あっという間に子供たちのごっこ遊びに返還された。


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