第2話 デュール谷の悲劇
六年後のデユール谷__
「あなた!! ミシャール!! 大変よ」
妻の悲痛な叫び声に夫のミシャールは、何事かと神殿の裏にある治療院に走って行った。
妻は、一週間前に出産したばかりだ。まだ、体力も戻っていなくて治療院に入院していたはずなのに…… あれほどの声で助けを求めに来るなんて……
今日は、夜勤明けで家の方へ帰っていたのだ。といっても、治療院の直ぐ隣が家なのだが。
だからこそ、妻の叫び声が聞こえたのだ。
「エリサ!!なにがあった?」
「アシュリーがいないの!!」
妻のエリサは、ミシャールの姿を見つけると駆け寄ってきた。彼女は、うす茶色の髪を振り乱して、震える声で言った。
「何処に行ったのかしら!?あの子は月足らずの子よ。念のために魔法処置だってしてあったのに」
「落ち着け、風たちの噂に耳を傾けるんだ。俺たちの手に追えなかったら、谷長に相談するんだ。しっかりしろ!!アリサは大丈夫だよ」
ミシャールは、妻のエリサを治療院に戻らせて、寝床に横たわらせた。おでこにキスをすると、安眠の薬湯を飲ませて休ませた。
そしてもう一度、娘のアリス・アシュリーを寝かせていた赤子用のベッドを見に行った。
ベッドは、空っぽだった。
(「何処に行ったというのだ?」)
だがそれ以降、デュ-ル谷の魔法使い兼治療師夫婦の赤ん坊は、誰の目にも触れられることはなくなった。
この話は、次の日に谷長へ報告され直ぐに捜索隊が編成された。
デュール谷の北の結界が、無理やりにこじ開けられた痕跡があったが、それ以上の捜索は困難をきわめていた。
月足らずで生まれて、未熟児だったために魔法処置がしてあった。
その事が逆に、アリス・アシュリーの行方を困難にさせてしまった。
意連れ去った人物は分かっていた。
エリサよりも、十日早く子供を男の子を死産した流れの旅人である。
デュ-ル谷の結界の外で、行き倒れており、治療院でお産をしたが、栄養不足等で子供は死産であった。
形ばかりの葬儀と埋葬が、谷長に許された。
身体がもとに戻ったら、谷から離れること……が条件であったが。
アリス、アシュリーがいなくなって、この女も消えていたのだ。
名前は、分かっている。ジェニー・トッドだと。だが、本名かどうかは分からない。
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