メアリ・タオ物語/英雄の影には魔法使いがいる

月杜円香

第1話  銀色の序章

 大陸の東方の聖地、銀の森の南方15セル(キロ)にある紅玉の森。

 春の麗らかな日に、マーティンはラルク家の二番目の子供として生をうけた。

 ラルク家は、神の子孫の眷属の家柄で、マーティンの父は、長の実兄である。

 長の母の血筋が良かったために、彼が嫡男となったのだ。

 全部神殿側の思惑である。


 病弱な長には、迷惑この上ないことだった。

 反抗心からか、長は今でも独身を貫いている。

 赤子の名は、亡くなった祖父の名からもらってマーティンとした。

 だが、マーティンが生まれると父も母も不安を募らせていた。


 マーティンには、二歳違いの兄がいたが、魔法使いの才能があると言われて、 七歳までしか手元で育てられないと宣告されていた。

 マーティンは、エル・ロイル家が大事にしている銀髪だったのだ。

 今では、神の血も薄まったのか、直系の嫡男の長ぐらいが銀髪に銀色の瞳なのだ。

 緩やかなウェーブがあったが、マーティンは見事な銀髪であった。


 そして心配したとおりに、神殿から使者がやって来た。


「あなた……神殿はなんと……?」


 長の実兄のロランは、まだお産間もない身体で、息子の行く末を突きつけられる妻に申し訳無さしかなかった。

 自分が、エル・ロイル家の親族のために、どれだけの事を我慢させてきたのだろうか……

 自由に領地を出入りすることも出来ない。

 妻は故郷のオアシスには、二度と帰ることは出来ないのだ。

 いつも神殿に見張られている……そんな生活だった。


「今回も前回同様、予見師様の予言に基づくものです。有り難く受け取りください。」


 使者の神官が勿体ぶって言うのを、ロランは紙を取り上げた。

 仰々しくろうで留めてある便箋を、ペーパーナイフで開けると、早速中に書かれている文字を見た。


 丸い現代語で女の子が書いた文字かと思ったが、中身はとても重大な事だった。


(『彼は、後に銀色の騎士となり魔法剣の主となる。魔法剣の導きによって過酷な時期を過ごすことがあるだろう。どうか、その時まで大切に慈しんで育てて欲しい』)と、書いてあったのだ。


 ロランは奥方のエメルダと顔を見合わせた。

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