第10話 どういうふうに接してあげればよいのだろう
**くんの家庭教師に向かう途中、今日は最初どういうふうに挨拶すればいいかあれこれ悩んだ。改めて謝らさせるべきか、あるいは何事もなかったようにするか。でもあれなことされかかったわけで、全く同じというわけにはやっぱりいかないだろう。
女から強く拒絶されたことは、高校生とはいえ男の子なのでもしかしたら傷ついてしまったかもしれない。**くん、童貞で何もわからなかったんだろうし。とはいえああいうことがまかり通るということを学習させてはいけないだろう。教育的によくない。私は別に教育者じゃないけど一女性として世の中の男性教育には参画しているはずだし。これ、留学中にジェンダーの授業習ったことの受け売りだけど。
それから私のこと「好き」って告白した**くんの勇気みたいなのをやっぱ尊重してあげたい。私の方ではとうてい**くんに恋愛感情は持てそうにないけど、「守ってあげたい・教えてあげたい」感情みたいなのは強く持っている。告白するのって勇気がいる。男子高校三年生が大学3年の女子大生に告白するとなると尚更だろう。よくがんばったね、と人ごとであれば褒めてあげたいところだけど対象が私なのでどう対応してあげればよいのか。どっちにしても**くんの気持ちを考えるとこの点は放って置けない。
などなど、**くんの家に向かう道中、ごちゃごちゃと考えてしまう。
数週間前にうけた予備校の模試が帰ってきたと見せてくれた。やばいくらい偏差値が落ちてる。春あたりからほぼ第一志望校の水準まで上がっていたのに今回二ランク落ちくらい。3年生になってからの恋愛とか、私とのあれとか、そういうことが響いてしまったのだろうか。そんな衝撃の模試結果を見たので先週のあれを踏まえてどう接しようかという悩みは吹っ飛んでしまった。
模試結果を見ておもわず、
「えっ!? これガチやばいじゃん。」
といってしまった。
「何か体調悪いとか、そういうのあった?」
「いえ、特にないっす。」
そうだよねえ、そういう話聞いてないもんね。ただ確かにこのところ、各回の授業でもあれ?と思うくらい新しいトピックの出来が悪いことには気づいていた。明らかに予習復習が足りないのが原因だ。この点、ちゃんとやるようにも言っていたのだがやっていなかった。その結果がこれなんだろう。
いろいろ話しをしてみた。どうやら**くん、私に対してガチで恋心を抱いているということがわかった。これは困った。こればかりはどうしてあげることもできない。両思いにならない限り解決しないから。せっかくできかかった彼女と別れてしまったのも、まじで私の存在が原因だったらしい。そんなの私に責任があるわけじゃないけどでもちょっとは責任を感じてしまう。
**くんが苦し紛れの懇願をしてきた。
「先生、演技でいいから授業に来てくれた時だけ彼女になってくれませんか?彼女に勉強教えてもらっているという感じで。」
「え?レンタル彼女みたいなやつ?そんなんでいいなら私はいいよ。でも現実と取り違えないでね。いい?」
ということで疑似恋愛まで請け負うことになってしまった。なんか家庭教師のバイト代の範囲からすればめちゃ過大サービスじゃないだろうか?でもご両親から市中の相場よりうっと多くいただいているのでそれは別にいいんだけど、というか逆にお金いただいてそんなことしてしまっていいのだろうか?ご両親からすれば大学生の女が息子をたぶらかしている、ということになるだろうし。すごく罪悪感が込み上げてくるけど、でもそれで成績が当たってくれるのならお安い御用ということになるのかもしれない。
ということはえっち関係はどうなるんだろう?、ということがふと頭をよぎった。
*** ***
で、次回から「私が彼氏に勉強を教える」というシチュエーションを演ずることになった。
もう、なんなんだよ、という感じ。
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