第9話 え、そうきたか



厄介なことに「え、そうきうたか」という事態の展開になった。


 5月の中旬、就職活動のためリクルートスーツを着ていたのだけれど、家に帰って着替える時間がなかったので、そのまま家庭教師に行った日だったのでよく覚えている。

 この日も最初に、彼女とどう?と聞いてみた。すると「あ、別れました」というではないか。あれこれ聞いたら傷つくだろうから、そうなんだ... とだけ言って、*くんから話し出すのを待っていた。ちょっと沈黙が続いたので、ふられたの?ときいてみた。はい、という。

「俺、他に好きな女の人がいるっていったらふられました」

「ええ?好きな女の子、他にいるの?なんで黙ってたのよ。じゃあ、最初っからその子に告白すればよかったじゃん!」

「言えなかったんです」

「なんで?そんな臆病じゃダメだよ。」

そういうと、*くんはちょっとムッとした顔になって、

「じゃあ、告白します。好きな女の人というのは先生です」


 これにはぶったまげた。そうきたか... さすがの私も仮説としてそういう展開は予測してなかった。状況的にはありえないでしょ。こっちは大学四年生、*くんは高校三年生。おばさんが若い子をたぶらかしたとしかみえない。少なくとも、世の中はそう見るだろう。こんな事態が明るみになったら、*くんのご両親に顔を向けられない。そもそもオナニー見てあげるとかいうおかしなことを許したのが間違いだったか。普通に考えれば、妙な感情を持たれて然るべきと考えなければいけなかった。いやでも生理的欲求からくる排泄=射精の介助をしてるんだと自分では思っていた。

 私のこと好き、と言ってくれるのは嬉しいけどでもそれって性的なことだけなような気もする。いや、性的なことだとしても高校生の男の子が年上の大学生にその気になるものだろうか。自分が女子高生だった頃の自身の肉体を思い出してみても、あの時と今とではいろいろ違う。現在の私のカラダではとても女子高生の弾けるような若さには勝てない。いや何を考えてるのだ私は。この場をどうにかしなきゃいけないのに、立ったままの状態で*くんを無言で見つめてしまっている。


 すると突然*くんが私に抱きついてきた。結構な力だ。意志の力を感じた。

私よりも少し背の高い、元カレよりは小さなカラダだけど筋肉質な硬い抱かれ心地だった。私の髪には*くんの頬がくっついている。一方の手は私の背中の上の方、もう一つの手は腰のあたり。ぎこちない抱きかた。間違いなく女を抱きしめたのは初めてだろう。

「え、ちょっとまってよ、どうしたの?*くん。」

と彼の肩に乗せようとしたところ、もっと強い力で、すぐ後ろのベッドにそのまま押し倒された。私の体に**くんが覆い被さっている形だ。お腹の辺りに*くんの、おそらく硬くなったあれの感触を感じた。右手が私の胸の上にのってきた。おい図々しいぞ。


「だめだよ、こんなの。おかしいでしょ。」

「先生好きなんです。俺。先生とセックスしたい」

と、今までの彼からは考えられないくらいはっきりとした意思を伝えてきた。

左手はストッキングに包まれた私の太ももをまさぐりはじめている。

これはまずい。本音ではこのまま**くんを受け入れてしまってもいいかなと思っている自分もどこかにあったけど、相手が高校三年生となると別だ。私が誘惑してこういう展開に持っていったと思われてしまうだろう。もし関係したことがバレたら。

 ありったけの力で*くんを押しのけた。

「リクルートスーツひとつしか持ってないんだよ。ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃん。ひどいよ、こんな乱暴なことするの」

というと、*くんはいつものしゅんとした感じに戻った。さっきの勢いは全くない。なんだか可愛くすらある。


「先生ごめんなさい。こんなことしてしまって。でも、先生のこと好きなんです。でも、片思いになるってこともわかってます。だからもうこんなことしません。しつこくしません。家庭教師やめないでください。お願いです。」

と、目に涙さえ浮かべている。

 え?そんなに思い詰めているの?やばいな。ストーカーとかになったらやばい。なんとかうまくやらなければ。まずはやばいくらいの彼の性欲をどうにかしてあげないとならない。年上の女を押し倒そうとするのだからよっぽどだろう。

 あるいはいっそのこと*くんの家庭教師を辞めてもいいのだけれど、志望校に受からせてあげたい。それまでは無責任に辞めたくない。

「わかったよ。そのことは、また今度ゆっくり話し合おうね。今日は落ち着くために、いつものように勉強しよ。」


 この日は何事もなかったように勉強をした。ただいつも以上に胸の辺りに*くんの視線を感じた。リクルートスーツのブラウスなのでいつものオーヴァーサイズの服とちがって胸の大きさがモロに出てしまう。高校生には、こういうのは刺激になってしまうのかもしれない。

 いずれにしても、性欲の問題なのか、本当に私に恋愛感情と言えるようなものを持ってしまったのか、その辺りを見極めねば。この両者は一体化しているように見えることもあるので受け手の女側としては厄介だ。


*** 


 その性欲ということで言えば、今日の展開を帰り道いろいろと反芻してみた。実は続きをやってみたかったかもと思っている自分がいる。童貞の男の子を教えてあげるのってどんな感じだろう。セックスを教えてあげたいという欲望があったりする。それは性欲とは違う欲望のように感じるけれどうまく区別がつかない。


 ところでこの日の私自身の性欲そのものによってしてしてしまった行為を暴露しておく。帰宅後、リクルートスーツのまま後ろからされるところを想像して玄関に立ったまま靴も脱がずに指でしてしまった。想像の中の相手は*くんじゃなくて、今日、会社訪問した時に話をした若手のかっこいい社員の男の人。おかげでスカートがしわしわになってしまった。アイロンをかけねば。









 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る