第4話

 「よく来てくれた」


 にっこり微笑む、スピリナイト辺境伯はしっかりとした無精ひげを備えていた。

 無理~!! この人、私のお父様より年上とかではないかしら!?

 でもまあ、彼から見たら私は若いから優しくして下さるかもしれない。


 「息子は今、魔物退治に出て戻って来ていないが、すぐに戻って来る。まずは休んでおくれ」


 うん? 息子? 息子がいるの? 魔物を退治出来る程の年齢。って、もしかして私の結婚相手はそっち!? あぁよかった。

 でも王弟の息子ならセゼール様の様な我儘なのでは、いやこんなおばさん嫌って言われるのでは?

 王命で仕方なく結婚するのなら、ここも地獄かもしれない。

 いやそれもそうだけど、ここって魔物が出るの!?

 来る時に一度も遭遇しなかったから本当はいないのではとは思ったけど、やっぱり浄化の力だったのね。


 辺境伯は、一応頷く私に部屋を案内してくれた。


 「ここがあなたの部屋だ。隣が息子の部屋。今日の夜には戻る予定だ。今日の夜は、パーティーだ」

 「はい……」


 私は、そう返すのが精いっぱいだった。だって驚いたから。

 部屋は、王城で与えられた部屋と同じぐらい広く、煌びやかではないけど質の良い物で整えられていた。

 歓迎されている? 専属侍女も三人も付くと歩きながら言っていたし。


 私は厄介払いされたから、冷遇されると思っていた。

 辺境伯にしてみれば、要らなくなった私を押し付けられたと思っていると。

 それにしても、決まってすぐに用意したと思えないわ。将来の嫁の為にあらかじめ用意してあったようね。そうよね。これは私に用意したものではないわ。

 私の味方は、精霊だけよ。


 「若奥様。お風呂に入られますか?」

 「え? そうね」


 お風呂場も凄く広い。一人用のバスタブではないのね。


 「ここは、天然のお湯がありまして、凄く体がツルツルになります。使用人専用風呂にも引いて下さってますので、私達もツルツルなのです」

 「そういえば……」


 王宮の侍女達より肌の艶がいい。

 水で温度調節して程よいあったかさの湯は、眠気を誘う。楽しかった旅とはいえ、一週間も馬車に揺られれば体は疲れる。

 お風呂から上がった私は、少し寝る事にした。

 一週間ぶりのふかふかのお布団。大きな街を経由して移動しなかったので、宿のベッドは普通。いや王宮のベッドになれちゃうとね……。

 思ったより快適だわ。

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