【第4話】時は金なり、オチはなくなり、

今日の部活はいきなり合奏から始まるらしい。

しかも譜面は昨日配られたもの。こんなの無理ゲーってやつだ。昨日の夜譜読みはしたものの、少し心配な箇所もある。ただ、1番の不安要素は後輩の演奏。まだ始めて数ヶ月の子らになんてことを。


柳原 「なあー、聞いてや航平ー。今日席替えしたんやけどさーあ、隣矢内やってん、ほんまいややわ。」

「あー、それは残念やったなぁ。」

こいつも不安だ。ていうか元々苦手だ。もう先輩方が引退してからだいぶ日が経っているのに、まだだらけるのか。ここでは最上級生なのを自覚してくれ。そんな柳原には構わず、練習を続ける。

石垣 「先輩、譜面台無いんですけど、、」

「ない!?うーんまたパーカスか?借りてくる。」

練習させてくれへんかなぁ!?

怒ってる場合では無いので素直にパーカッションへ譜面台を借りに行く。


譜面台を受け取ったあと、自然な流れで大智の方を見ていた。

すると大智はすでにこちらを見ていて、ニカッとイタズラでもするような笑顔を見せた。

(がんばれよ、せんぱい)

口が動いた。そう言っている気がした。少しイラッとしたけど、大智のそういうところには救われているなぁと思う。


部室のドアが開き、先生が入ってくる。

合奏、乗り越えられるんやろうか、




赤城 「ありがとうございました!」

「「ありがとうございました」」

赤司 「さよならー」

「「さようなら!!!」」


合奏が終わり部活も終わった。

今日の先生はなんか、

東  「なんかイライラしてたよなぁ、あかしん」

「今言おうと思ってたわ、、、」

みんな感じていたのだろう。やはり譜面を渡された翌日に合奏というのは、俺たちのレベルでは難しかった。あからさまに先生はイライラしていた。

「強豪校みたいなことさせんなって。」

東  「ほんまに、、、。ていうか、スタンドプレイっていつやんの?」

「明後日かららしいわ。」

東がクラっとする仕草をしてみせた。普通の団体は本番4日前にそんなことはしないだろう。

「その前に曲やで、、このままやったらあかん。」

東  「相変わらず、真面目でんなぁ」

お前こそ、実はクソ真面目なくせに。

という台詞は喉までにしておこう。場が悪い。



大智や凛奈と共に部室の鍵を閉めた頃には、外は暗くなり始めていた。

四条  「はぁー、私の嫌いな冬がやってくーるぅ、、、。」

赤城 「俺は冬の方が好きぃー。服とか布団あったかいやん?」

他愛もない話をしながら薄暗い廊下を歩いていく。

と、校内放送がなる。最終下校時刻が迫っているらしい。これは吹奏楽部への放送、というか脅しだ。

終わりの時間を守らない俺たちへの。

赤城 「急げ!!村尾にしばかれる!!!」

「しばかれるのはお前だけやねん!!」

爆笑しながら廊下を駆け抜ける。校門を出た頃には息が上がりきっていた。


凛奈と別れた後、大智と2人で喋りながら帰った。

大智とは地区が違うのだが、方向が大体同じなため着いてきてくれる。昔は遅くなることを懸念して何度か先に帰るよう促したが、今は諦めて一緒に帰っている。

赤城 「なーあ、しょーみさ、スタンドプレイってちゃんと出来ると思う?」

「思わん」

赤城 「やんなぁ、、。スタンドプレイの曲、1個減らしてもらったほうがいいんやろか。」

「あ、巽や」

赤城 「聞いてへん!聞いて!!」

視線の先で巽がうずくまっていた。周りには吉本や東が立っていた。何故巽だけうずくまっているんだ、、、

赤城 「お前いじめられてんの??」

安田 「そうかもしれん!!!」

吉本 「違うよ、安田が勝手に土下座してるだけ」

意味がわからない。

「いつか通報されても知らんで、、」



「んでさっきの話やけど、1個減らしてもう1個に集中する方がええと思うわ」

赤城 「続けてくれてどーも。そうやんなぁ、」

あいつらは無視してきた。

「時間が無いで。1日1日大事にせなな。」

赤城 「時は金なりっつってなぁ、、。あ、こーへーは鬼なり。」

「それどーゆー意味?」

赤城 「なんも無いでぇ!!!!」

「あっ!こら!待てぇ!!!!」

走りながら大智の言ったことを反芻する。

残された時間は、全部であと1年もない。

真面目らしい俺は、焦りと期待で落ち着かなくなってしまった。






登場人物

2年2組 柳原真奈(クラリネット)

2年3組 東 海未(クラリネット)

2年2組 矢内陸斗(テナーサックス)

1年2組 石垣彩花(クラリネット)

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