【第2話】エンターテイナー初心者

日が暮れるのも充分早くなった秋。月末の小学校での演奏会に向けて、トランペットパートは練習していた。

峠  「風強すぎやろ!!!!!」

「なんでペットだけ外なん!?おかしいやろ!」

冬野 「あーー!!凛奈先輩!譜面台倒れる!」


ガッシャーン!


「、、、ペットの練習場所の革命を第1にするべきやと思うねん。」

峠  「そんなん出来るわけないやろ」


秋から冬にかけては中庭の風が容赦なく吹きすさぶ。譜面台に向かって。実際、トランペットパートはここ数年ずーーっと外でやっているのだ。そろそろ校舎の中で練習したっていいのではないだろうか。というかもうすぐ合奏なのにもかかわらず、この攻防のせいで譜読みが追いついていない。


「たっちゃーん、今何時?」

時計を見に行った同期に声をかける。

安田 「え、もう4時なんやけどふざけんなよ」

合奏は4時から。

「じゃあもう上あがってくださぁい。」

「「はい」」



合奏とは言われたものの、どの曲をやるのか知らされていない。演奏会はアンコール合わせて5曲吹く。思わず後ろのパーカッションに聞いてみた。

「今日先生結局どの曲やるん??」

須江 「私も聞きたい!」

「あかんわぁあかしん、、、」

笑顔で分からないと言われれば、為す術なく肩を落とす。今日は許してくれ、あかしん。


ガララッ

「「こんにちは!!!!」」

あかしんこと赤司先生が部室に入ってきたので、部員たちが一斉に挨拶する。

赤司 「チューニングした?」

赤城 「しました!」

大体の合奏は全体チューニングから始まるが、青吹革命の一端で、幹部がすることになった。



赤司 「んじゃあ青一小校歌からやるで」


!?!?!?!?


思わず隣の赤城を見る。変な顔になっていた。

「い、1番やってへんやつ来た〜、、、、」

ましてや私は青一小出身ではない。松原小出身だ。

違う小学校の校歌なんか存じ上げないに決まってる

赤司「青一の子ぉって誰がおる?」


来た!初回やもんな!雑談から来るよな!

この隙に譜読みを頑張る。

赤司「あっ結構少ない、うーーん、、じゃあ1回大体だけ聞いてみよか。」

と、突然ピアノの方へ動き出す。

赤司「楽譜初見やけどけど許してな。」


♩♪♪♬♩


!?!?!?!?

部員は大混乱だ。先生がピアノを弾けるなんて知らないし、初見だとは思えない。

混乱しながら目の前の譜面を追う。トランペットだからか、今のところ全部メロディーだ。

峠  「これ全部メロディーやん、たぶん。」

「じゃあワンチャンいけるわ、よかった。アカギのんはどんなん?」

赤城 「、、、、、、」

そこには大量の8分音符。裏打ちが9割。

「あぁー、、がんばって。」

赤城は頭を抱える。

赤司 「大体こんなんかなぁ、ほんでその譜面、実は2回繰り返すねん。」

なんだその地味に疲れる曲

赤司 「繰り返すとこいうから聞いといてな!」

82小節目まで吹いて最初に戻るらしい。ちくしょー


赤司「じゃあ最初から行きます」

「「はい!」」





吉本 「いや、それは嘘やって、、、!」

須江 「えっほんまに、マジやって!」

「いや、須江さんそれはないわ、なんで校歌でぴょんぴょんとかピチピチとか言うねん、、!」

この日の帰りは専ら青一小の校歌の話題でもちきりだった。だって歌詞が、歌詞が、、、

北西 「海見えへんのに海の見える校舎とか言ってんねんで、おもろすぎるて」

須江 「昔は見えてたらしいわ、、、」

もうみんな笑いすぎてぐったりしている。


岡山 「お前ら歩くのおっっっっそいねん!!時速300mか!!!!!」

遠くから岡山の叫び声が聞こえる。

ちかちゃんと歩くとなんか遅くなる。

「ほら、岡山くんが怒ってんで、須江さん」

吉本 「はよしぃや須江さん」

須江 「いや私のせいちゃうやろ」

「「いや絶対あんたのせいや!!!!」」


校門近くまで走っていく。岡山のいるところの手前に、赤城がいた。柄にもなく背中が小さく見える。

「アカギぃ、どうしたん。なんかあった?」

赤城 「!!べっつになにもないしきにせんといて」

「いや気になるて。、、もしかして、まだ演出考えてないん?」

赤城が無言でこっちを向いた。図星。

「そんな焦らんでいいってぇー!須江様も北西もおるやん!」

赤城 「そうやんなぁ、、、俺さぁ部長やのになんか、こう頼りないよな。副部長に任せっきりになってる気がすんねん。」

失礼かもしれないけど、私は心底から驚いた。

なにも考えてなさそうな、ふざけて周りを明るくするタイプの赤城がこう悩むと思ってなかったのだ。

、、、正直に言わせてもらおう

「心配せんでも、うちらはアカギを充分頼りにしてるし、頼ってるで。」

赤城の顔が変になった。合奏中のあの顔とはまた違うものだった。

赤城 「、、俺は何か実際に功績を残したいんや!!やからちょっと待ってくれへんか。」

赤城が神妙な顔をしてこちらを見つめてきた。

そんな事を言われてしまったら待つしかない。

「それでええけど、なんかあったら言うんや、絶対。溜め込むんはアカギの悪いクセやで。」

赤城 「へーい」


18時3分、最終下校時刻過ぎ

西日が私たちを照らし、自らの影を伸ばす。

その影を見て、苦しくなった。






登場人物

1年2組 冬野ひより(トランペット)

2年3組 安田巽(トランペット)

2年3組 須江千香子(パーカッション)

2年2組 吉本王輔(アルトサックス)

指揮者 赤司尚人

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