第19話

 職員室で二時間ぐらい事情聴取され、やっと帰路に着いた。

 後日、二人の親から謝罪と取られた分のお金は七割戻ってくるようだ。


「はあ、疲れた」


 家に着くなりソファーに深く腰を落とす。


「あのー」


 俺の前に美桜が小さくなって立つ。


「なに?」


「勝手なことしてごめんなさい!」


 美桜が必死に頭を下げる。


「謝らなくていいよ。なんか、胸がスカッとしたよ。ありがとう、美桜」


「でも、私我慢できなかったんです!だから、どうか追い出さないで……え?」


 美桜が頭を上げる。

 俺をじっと見つめる。


「ええっ!?伊織さんじゃない!これ伊織さんじゃないです!」


 突然訳も分からないことを叫び出す美桜。


「何言ってんの?まあ、いっか。ご飯にするから、待ってて」


「いや、誰ですか!?本物の伊織さんは言葉に棘があって、ひねくれてるんですよ!こんなの、ただの優しい伊織さんじゃないですか!?」


「今日ご飯抜きな」


 言い過ぎだろ。棘がないのも、ひねくれてないのも良いことだろ。


「むぅ、朝までは普通だったのに」


 そんな宇宙人を見るような目で見るな。


 変わったとすれば美桜を信用するようになったとこかな。


『私が、あなたを助けたかった!』


「ちゃんと、助けられてたよ」


「なんか言いました?」


 料理をする俺の隣に立つ美桜が聞き返してくる。


「いや、何も言ってない」


 美桜を拾った日から、俺の日常は変わった。

 常に笑顔で俺を振り回して、呆れさせて、怒らせて。


 楽しかった。

 だからこそ、二人への怒りをすぐに忘れることができた。

 美桜がいなかったら、ずっと怒りに囚われたままだった。


 助けを求めなくても、勝手に助けるんだな。


「そういえば、私が告白されているのを聞いたって言いましたよね?」


「ああ」


 それがどうしたんだ?


「伊織さんはそこにいたんですね。明日から私もそこに行きますね」


「教室でいいよ。一緒に食べよう」


「嫌なら、毎日行く前に行ってらっしゃいのハグと『可愛い』をお願いし……え?いいんですか?」


 騒がしいなあ。


「いいよ。あと、ハグと可愛いもしようか?」


「ええ!?」


 驚く美桜。


「冗談だ」


「で、ですよね。もう調子狂うなぁ」


 美桜が困ったように笑う。


 そういえば、美桜は好きな人いるんだよな。付き合うことになったらどうするんだろ。

 その時は、本当に別に暮らすべきだよな。


 ……胸が痛い。

 この痛み、確か美桜が告白されていた時にも。


 ……あ、もしかして俺、美桜のこと、


「伊織さん、手止まってますよー?」


 左頬に何かが刺さる。 


「っ!」


 美桜の指だった。


「驚きすぎですよ」


 クスクスと子供のように笑う美桜。


 ダメだ。これは気づいたらダメだ。


「伊織さん顔赤いですよ?風邪ですか?」


 美桜が俺の顔に手をのばす。


「近づくな!」


「え!?ど、どうしてですか!」


 最悪。

 美桜には好きな人がいるだろ。


 なんで、好きになってしまったんだよ。


 あーも、こんな駄メイド拾わなければよかった。

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