第18話

「伊織ー、今言っちゃおうかなー?」


 放課後になった瞬間、拓也が俺の席に来て伝える。


「アンタもバカね」


 紅葉はスマホを弄りながら吐き捨てる。


「好きにしろ」


 俺はカバンを背負って教室から離れようと、二人に背を向けた。



《あなた達が騙したんですよね?》



 突然、前触れもなくスピーカーから大音量で何かが流れ出した。

 学校全体に流れているらしく学校中がどよめく。



《……伊織、それは大丈夫なのか?》



「え?これ拓也くんの声じゃない?」


 クラスの皆の視線が拓也に集まる。

 拓也の顔がだんだんと焦りに染まっていく。


「たっくん、なにこれ?」


 紅葉も拓也の異変に気づいて肩を揺するが、本人は何の反応もしない。

 顔中に汗を流している。



《答えてください!あなた達が騙したんですよね!?紅葉さんが伊織先輩に告白して、付き合うフリをしてブランド物を買わせたり、お金を請求したり!》



「この声、美桜ちゃんじゃない?」


「伊織って、佐藤だよな?」


「紅葉が付き合ったフリ?」


「ブランド物買わせたとか請求とか、流石嘘でしょ」


 クラスの皆が呆れたように笑う。

 いたずらの類いだと思ったようだ。



《うん》



 でも、あっさりと肯定する録音の拓也。


 ざわつく教室。

 それに他のクラスや学年の人が廊下に集まり始めた。


「たっくん。ねぇ、たっくん!これ、ヤバいんじゃないの!?」


 紅葉が必死に拓也の体を揺らす。

 紅葉の焦りが信憑性を深める。


「っ!行くぞ!」


 拓也と紅葉が走りだそうとする。


 その間にも録音は流れ続け、どんどん二人への視線が鋭いものになっていく。


「待て、最後まで聞こうぜ、二人とも」


「ちゃんと説明してよね」


 教室から出ようとする二人をクラスメートが塞ぎ止める。



《面倒だな。そうだよ。紅葉は伊織と付き合うフリして、金づるにした。で、俺も途中から紅葉に頼んで伊織から一万円を貰って……この言い方は不満そうだね。一万円を奪ってた》


《紅葉が俺に寝取られたことを知った時の顔は面白かった。この世の終わりみたいな顔してた》



 拓也と紅葉が崩れ落ちる。



《おい!なにしてんだ!》


《え、ご、ごめんなさ、あっ、待ってあと少しですからっ》



 美桜の抵抗虚しく録音は切られる。



《えー、二年二組の斎藤拓也、林紅葉、それから佐藤伊織はすぐに職員室まで来るように》


《伊織さん、お手間かけて、ごめんなさい!》


《おい!逃げるな!お前も来るんだよ!》



 ……帰りたい。

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