第17話

「あー、行っちゃった」


 拓也が科学室から出てくる。


「伊織じゃん。何してんだ?まさか盗み聞き?」


「外まで聞こえてた。周りに人がいなくてよかったな」


 俺的には聞かれてほしいところだったが。


「美桜ちゃんに話したんだな」


「……」


「余計なことをしたな。このこと言ったら、お前の立場がなくなるぞって警告したろ?美桜ちゃんが言いふらさないか心配だから、俺と紅葉で先手を取るぞ?『伊織が金で無理やり紅葉を襲った』みたいな」


 学年一のイケメンと美少女が言って回ったら皆信じるだろうな。

 俺は晴れて悪人か。


「やればいい」


 俺の返答に拓也が目を見開く。

 予想外だったか?お前のことだ。焦っている顔や、苦虫を噛み潰したような顔が見たかったんだろ?


 なんとなく分かる。


 どうとでもすればいい。


 俺は大事なことに気づけた。


 俺のために本気で怒ってくれた。

 俺のために本気で悲しんでくれた。


 もう、分かったろ。いや、本当は分かっていたんだ。それを怖くて否定してた。


 でも、もう背けない。

 美桜は信用できる。


 美桜が俺のことを大切な人と言うように、俺にとっても美桜は大切な人だ。


 それに気づくことができた。


 だから、もういい。

 どうとでもなれ。


 美桜はたぶん、いや絶対、俺がどれだけ周りから嫌われようとも、俺が突き離そうとしても、隣にいてくれる。


 美桜は俺を裏切らない。

 それだけで十分だ。


「もっと焦れよ」


 拓也は表情を歪めて去っていった。

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