第16話
今日も昼休みに伊織さんの教室に足を運んだ。
「あ、美桜ちゃん。佐藤なら今日もいないよ」
先輩が私の姿を目にするなり教えてくれる。
「ありがとうございます。でも、今日は伊織先輩じゃなくて斎藤先輩に用があって」
「まじか。あ、斎藤は彼女いるから狙わない方が、」
「私好きな人いますので」
変な勘違いをしている先輩を切り捨てた。
◇
「それで、話って何?」
科学室で斎藤先輩と距離を取って向かい合う。
斎藤先輩は昨日と変わらず笑顔だった。
「全部、伊織先輩に聞きました」
一瞬、斎藤先輩の笑顔が崩れた。
「なるほど。それで、謝りに来たってわけか。俺は昨日のこと気にしてないよ?」
斎藤先輩が自分の左の頬を指差す。
そこは少しだけ赤くなっていた。
「どの口が」
「なんか言った?」
「……いえ」
◆
「次は美桜ちゃんなんだよ。紅葉はお金を渡されて無理やり酷いことをされた。俺は美桜ちゃんにそんな思いをさせたくない。だから、もう伊織と関わるな」
自分の中で何かが溢れた。
それは、怒り。
私は斎藤先輩との距離をずかずかと詰める。
「あなたが伊織さんの何を知っているんですか!?伊織さんはそんなことしない!」
私は感情的になって、斎藤先輩の頬に手のひらを出した。
あまりの言い方にストッパーが効かなかった。
「優しい伊織さんをそんな風に言わないで!」
昨日の私はそのまま科学室を走り去った。
◇
「あなた達が騙したんですよね?」
「……伊織、それは大丈夫なのか?」
斎藤先輩が一人呟く。
「答えてください!あなた達が騙したんですよね!?紅葉さんが伊織先輩に告白して、付き合うフリをしてブランド物を買わせたり、お金を請求したり!」
「うん」
私の問いかけに、斎藤先輩はあっさりと肯定する。
「ど、どうしてですか!」
「伊織が金を持ってたから。伊織は優しいからすんなり貸してくれたんだよ」
「違う!騙したんでしょ!」
伊織さんの優しさを踏みにじるな!
「面倒だな。そうだよ。紅葉は伊織と付き合うフリして、金づるにした。で、俺も途中から紅葉に頼んで伊織から一万円を貰って……この言い方は不満そうだな。一万円を奪ってた」
笑顔を剥がして淡々と言葉を発する。
「紅葉が俺に寝取られたことを知った時の顔は面白かった。この世の終わりみたいな顔してた」
「……い」
「ん?」
「うるさい!どうして、そんな人の不幸を笑えるの!?」
目の前にいる人が同じ人間だとは思えなかった。
「面白いからに決まってんだろ」
「っ!」
狂気の笑顔を向けられ全身が震え上がる。
怖くなった私は斎藤先輩の横を抜け、科学室から飛び出した。
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