助けた女の子がメイドになったんだが、家事スキル０の駄メイドだった

第15話

「これが、お前の知りたかったことだ」

「っ！」

　美桜が下げていた頭を上げる。

　泣きながら怒っていた。

　どんな感情？

「伊織さんは優しすぎです」

　美桜はそう言って笑った。

「んなことねぇよ」

「そんなことあります。優しすぎますよ、本当に。だからこそ、赦せない！伊織さんを騙して、傷つけた二人が！」

　今度は怒りを大きく見せる。

「お前が怒ることないだろ」

　そもそも、俺ですらもうそんなに怒ってないんだし。

　一生冷めないと思ってたのにな。なんでだろう。

「怒りますよ！だって、私にとって伊織さんは……大切な人ですから」

　その言葉が嘘だと俺は思えなかった。

「……あっそ」

　それでも過去のトラウマは消えない。信用できない。そんな自分が嫌になった。

「それで伊織さん、どうして私と別で暮らそうと言ったんですか？」

　静かになった空間を壊すように、美桜が話を変える。

「もちろん、出ていけと言えば出ていきます。居候の身ですから。でも、理由だけでも聞きたいです」

　美桜が真剣な表情で俺に向き合う。

「あー、先に謝っとく。盗み聞きするつもりはなかった」

　美桜が首を横に傾けた。

「お前、好きな人いるんだろ？だから同棲してるのバレたら不味いだろ」

「……ん？」

　美桜が泣いて充血している目を大きく開く。

「どうした？」

「……ばか」

「は？」

　聞き間違いか？

「ばか。伊織さんのばーか」

　美桜が嬉しそうに連呼する。

「お前、さっき謝ってたろ」

「ばーかばーか。伊織さんのばーか」

　何が面白いのか満面の笑顔の美桜。

「はあ、これが理由だ。納得したか？」

　わかったなら出ていけよ。

「理由は分かりました。でも、出ていきません」

「はあ？」

　血迷ったか？

「尚更出ていきません。今度こそ形だけのメイドにしてください」

　……あの日と同じ瞳。

　絶対に折れないやつ。

「……勝手にしろ」