第14話
ただ、ベンチに座っているだけ。
誰もいない公園で時が過ぎるのを待つ。
どうしてこうなった?
何が悪かった?
違う。避けようなかった。
強いて言うなら騙された俺が悪い。
なら、どうする?
もう、騙されない。
もう、誰も信用しない。
ざっ
砂を踏む音がした。
顔を上げれば髪の長い女性が公園を歩いていた。
長いって話じゃないな。身長は150ぐらいだろう。後ろの髪は足元に届こうとし、前髪は顔全体を覆っていた。
服はボロボロのセーラー服を着ていて、よれよれの靴下で公園をフラフラ歩いていた。
あの制服は、近くの中学校。
彼女は俺の前を過ぎ去って、水道のところで身を屈めて蛇口を捻る。勢いよく水を口にする。
そして、倒れた。
「お、おいっ」
俺は彼女に近づく。
獣みたいな臭いが漂ってきて顔をしかめる。
脈はある。
「大丈夫か?」
肩をゆっくりとさすって声をかける。
「……お腹、空いた」
は?
掠れた声で彼女が告げた。
なんかの病気かと思ったわ。
「家はどこだ?」
面倒臭いが放置するわけにもいかないだろ。
「……ない」
「は?」
「家はない。親もない。お金もない。もう、生きたくない」
「……そんなこと言うな」
俺は彼女をおぶって家に帰った。
◇
「はっ、はっ、はっ」
カツカツと金属が激しくぶつかる音が響く。
「……喉詰まらせんなよ」
お粥だから大丈夫だろうけど。
彼女を家に上げて、まずは料理を作った。先に風呂か迷ったけど、本当にお腹空いてそうだったから後にする。
「食べ終わったか?」
結構大きな土鍋に作ったんだが、15分と経たずになくなっていた。
「ぐすっ」
突然、鼻をすする音がする。
泣いてるのか?前髪が長くて見えねぇ。
「あ、あひがとっ。こんなに暖がいもの久しぶりに食べたっ」
震えながらたどたどしく伝える彼女。
「……あっそ。どうでもいいから早く風呂入れ。着替えは俺ので我慢しろ」
彼女を立たせて風呂に案内した。
◆
彼女が風呂から上がると俺は事情を聞いた。
彼女は北山美桜。一ヶ月前に両親が蒸発。自分を残して去っていった。
家は入れなくなって、お金はない。服も公園で着ていたものしかなく、この一ヶ月は山と公園を行き来していたらしい。
「じゃ、警察所行くか」
俺は彼女に告げる。たぶん、そこで何とかしてもらえる。
「あ、あの、お礼させてください!」
目の前に座っていた彼女が立ち上がって大きな声を上げる。
「いや、いらん」
「ここまでしてもらって何もしないのはっ」
「いらん」
「い、いえ」
必死にお礼をしようとする彼女。それは、俺に近づこうとしているようにも見えて、
「……お前も金が目的か?」
その姿がアイツらに重なった。
「ち、違います!本当にただお礼を!」
「だから、いらんって言ってるだろ」
なかなか引き下がらないな。もしかして、面倒なの拾ってしまったか?
「じゃ、じゃあメイドになります!ここで雇ってください!!」
「は?何言ってんだ?そもそも、お前家事できるのかよ」
「できます!!」
自信満々に即答する彼女。
でもメリット薄いよな。いくらかもわからんし。
「お金はいりません!」
「は?」
「ここに住ませてください!」
ここで、彼女の目的がようやくわかった。
衣食住が欲しいんだな。そういうことか。
でも、
「ダメだ。他のところでいいだろ」
ここじゃなくてもいいはず。
「ここ以外なら死にます!今日から私の生き甲斐はあなたに尽くすことです!」
髪の隙間から彼女の瞳が見えた。
……くそ、厄介なの拾っちまった。
「……勝手にしろ」
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