第14話

 ただ、ベンチに座っているだけ。

 誰もいない公園で時が過ぎるのを待つ。


 どうしてこうなった?

 何が悪かった?


 違う。避けようなかった。

 強いて言うなら騙された俺が悪い。


 なら、どうする?


 もう、騙されない。


 もう、誰も信用しない。


 ざっ


 砂を踏む音がした。

 顔を上げれば髪の長い女性が公園を歩いていた。

 長いって話じゃないな。身長は150ぐらいだろう。後ろの髪は足元に届こうとし、前髪は顔全体を覆っていた。

 服はボロボロのセーラー服を着ていて、よれよれの靴下で公園をフラフラ歩いていた。


 あの制服は、近くの中学校。


 彼女は俺の前を過ぎ去って、水道のところで身を屈めて蛇口を捻る。勢いよく水を口にする。


 そして、倒れた。


「お、おいっ」


 俺は彼女に近づく。

 獣みたいな臭いが漂ってきて顔をしかめる。

 脈はある。


「大丈夫か?」


 肩をゆっくりとさすって声をかける。


「……お腹、空いた」


 は?

 掠れた声で彼女が告げた。

 なんかの病気かと思ったわ。


「家はどこだ?」


 面倒臭いが放置するわけにもいかないだろ。


「……ない」


「は?」


「家はない。親もない。お金もない。もう、生きたくない」


「……そんなこと言うな」


 俺は彼女をおぶって家に帰った。





「はっ、はっ、はっ」


 カツカツと金属が激しくぶつかる音が響く。


「……喉詰まらせんなよ」


 お粥だから大丈夫だろうけど。

 彼女を家に上げて、まずは料理を作った。先に風呂か迷ったけど、本当にお腹空いてそうだったから後にする。


「食べ終わったか?」


 結構大きな土鍋に作ったんだが、15分と経たずになくなっていた。


「ぐすっ」


 突然、鼻をすする音がする。

 泣いてるのか?前髪が長くて見えねぇ。


「あ、あひがとっ。こんなに暖がいもの久しぶりに食べたっ」


 震えながらたどたどしく伝える彼女。


「……あっそ。どうでもいいから早く風呂入れ。着替えは俺ので我慢しろ」


 彼女を立たせて風呂に案内した。

 




 彼女が風呂から上がると俺は事情を聞いた。


 彼女は北山美桜。一ヶ月前に両親が蒸発。自分を残して去っていった。

 家は入れなくなって、お金はない。服も公園で着ていたものしかなく、この一ヶ月は山と公園を行き来していたらしい。


「じゃ、警察所行くか」


 俺は彼女に告げる。たぶん、そこで何とかしてもらえる。


「あ、あの、お礼させてください!」


 目の前に座っていた彼女が立ち上がって大きな声を上げる。


「いや、いらん」


「ここまでしてもらって何もしないのはっ」


「いらん」


「い、いえ」


 必死にお礼をしようとする彼女。それは、俺に近づこうとしているようにも見えて、


「……お前も金が目的か?」


 その姿がアイツらに重なった。


「ち、違います!本当にただお礼を!」


「だから、いらんって言ってるだろ」


 なかなか引き下がらないな。もしかして、面倒なの拾ってしまったか?


「じゃ、じゃあメイドになります!ここで雇ってください!!」


「は?何言ってんだ?そもそも、お前家事できるのかよ」


「できます!!」


 自信満々に即答する彼女。

 でもメリット薄いよな。いくらかもわからんし。


「お金はいりません!」


「は?」


「ここに住ませてください!」


 ここで、彼女の目的がようやくわかった。

 衣食住が欲しいんだな。そういうことか。

 でも、


「ダメだ。他のところでいいだろ」


 ここじゃなくてもいいはず。


「ここ以外なら死にます!今日から私の生き甲斐はあなたに尽くすことです!」


 髪の隙間から彼女の瞳が見えた。


 ……くそ、厄介なの拾っちまった。


「……勝手にしろ」

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