第12話

「伊織くん、初めて会ったときから好きだった。付き合って」


 高一の7月。放課後の誰もいない教室で、俺は初めて告白された。

 それも、好きな人に。


 席替えで隣になって、よく話すようになって、いつの間にか好きになっていた。


「お、俺も好きです。こんな俺でよければよろしくお願いします」


 震えながら言葉にした。

 たぶん顔は真っ赤だった。


 でも、彼女は俺の手を取ってくれた。


「よろしく、伊織くん」


 彼女は、紅葉は顔を瞳に涙を溜めて笑った。





 初デートは近くのショッピングモール。会話を弾ませながら色々なお店を回る。


「伊織くん、これ欲しいなあ」


 美桜が指差すのは、黒のバッグ。

 ただ、学生が買うには手を出しづらい金額だった。


「わかった」


 俺の両親はお金持ちだと思う。今は仕事で二人とも海外に。一人暮らしをする俺に、両親は必要以上のお小遣いをくれる。

 だから、懐にはかなり余裕があった。


 俺はそれをレジまで持っていってお金を支払う。

 そして、紅葉にプレゼントした。


「ありがとう。大切にするね」


 紅葉はそれを大事そうに抱きしめてはにかんだ。

 俺は、それだけで心が満たされた。





「伊織、これ欲しい」


「……うん」


 違和感を感じ始めたのはいつからだろう。


 毎週のように行くデート。それは、いつもショッピング。

 紅葉が欲しいものを指差して俺がそれを買い、紅葉に渡す。


「はい」


「ん」


 渡すと、スマホを弄りながら素っ気なく返事が返ってくる。


 一ヶ月経ったぐらいから目を合わしてくれなくなった。

 二ヶ月経った今では会話すらできていない。


「あ、これも」


 今度は黒のバッグを指差される。


 え?今、同じようなもの持ってるじゃん。しかも、それ俺が初めてプレゼントしたモノだよ?


「……そのバッグは?」


「これよりそっちの方が可愛い」


 ……俺が初めてプレゼントしたのをそんなあっさり。

 というか、自分で選んでたよね?


 俺は少しだけ疑問と不満を抱きながらもバッグをレジに持っていった。


「お会計8万6000円になります」


 俺は財布を開く。


「……あ」


 お金が足りない。

 最近使いすぎたから。


 仕方なくバッグを定員に返してお店を出る。


「紅葉」


 お店の前でスマホを弄る紅葉に声をかける。


「なに?」


 紅葉はスマホから目を離さずに返事をする。


「……お金が足りなくて、その、買えなかった」


「は?」


 今日初めて俺の目を見た。

 その表情は怒りに満ちていた。


「ご、ごめん」


「あり得ないんだけど。はあ、もういい。今日は帰る」


 紅葉が俺に背を向けて歩き出す。


「ま、待って!家まで送っていく」


 紅葉の背中を追いかける。


「いらない。着いてこないで」


 俺の足は、紅葉のあまりにも冷たい声に止まった。

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