第11話

 玄関の扉を開ける。


 美桜は帰ってるのか?

 昨日あんなことがあったから、もしかしたらと思ったがちゃんと靴があった。

 いるのか。流石に部屋にいるだろうが。


 昨日、どうして美桜が感情的になったのか分からなかった。

 喜んでくれるくれるとさえ思っていた。


 どこが悪かったのか。

 アパートを借りると伝えたから、居には困らないはず。

 美桜用の口座にお金はあるから、食住にも困らない。困ったとしても親に頼めば何とかなる。


 メイドを辞めさせられること?

 いや、アイツ自身が形だけって言ってたしな。


 それに、変なことも言ってた。

 俺を助けたいって。

 あの時、言ったように俺は助けを求めてなんかいなかった。


 んー、分からん。考えれば考えるほど分からん。

 何故美桜はこの家を出たがらないのか。


 考えながらリビングに入る。


「おかえりなさい、伊織さん」


「……は?」


 今日は聞けないと思っていた声が耳に触れた。

 顔を上げれば、美桜がソファーに腰を下ろしていた。真剣な表情で。


「話があります」


 美桜が静かに告げた。





 美桜の隣に腰を下ろす。


 お互いに口を開かない。静かな空気がリビングを満たす。


 コホン、と美桜が咳払いをする。美桜がこちらに体を向ける。


「昨日は酷いことを言ってごめんなさい」


 頭を深く下げる美桜。


「酷いこと?言われたか?」


 心当たりのないことで謝られて戸惑う。

 断じて言うが、昨日のことはちゃんと覚えている。その上で、心当たりがない。


「私が部屋に行くときに『ばか』って。本当にごめんなさい」


 ……そんなこと言われたような言われてないような。でも、


「謝ることじゃなくないか?」


「それでも、ごめんなさい」


 律儀なやつだなあ。


「謝んな。気にしてないから」


「……はい」


 返事をしながらも複雑な表情をする美桜。


「で、話ってなんだ?」


 これが本題って訳でもないだろ。


「はい。昨日のことですが、ちゃんと話し合いませんか?私から言える立場ではないんですけど。どうして伊織さんがあれを言い出したのかだけでも知りたいです」


「……分かった」


 美桜に不満が残っても仕方ないしな。


「それから……伊織さんのことを知りたいです」


 制服のスカートを強く握り締める美桜。


「俺のこと?」


「はい。紅葉さんのことについて」


「ッ!?どこで知った?」


 この家に紅葉の存在を示すようなモノはない。

 そして、俺と紅葉が付き合っていたことを知る人は俺と紅葉と拓也。

 だとしたら、紅葉か拓也。


「今日の昼休みに伊織さんの教室に行ったら、斎藤先輩が」


 どういうつもりだ?


「なんて聞いた?」


「伊織さんが紅葉さんにお金を渡して彼女にしていた、と」


 ……美桜からの信頼を落とそうってか?

 もう、呆れて怒りも湧かない。

 でも丁度いいか。それに乗ってやるよ、拓也。


「あの時は彼女が欲しくてな。まあ、大体合ってるよ」


 これで、失望でもされてここから出ていって貰えれば、美桜もやりやすくはなるだろう。


「ふざけないでください!」


 美桜が顔を怒りに染める。初めて見る表情だ。

 ほら、罵倒が来るぞ。


「どうして、そんな嘘をつくんですか!?」


「え?」


 予想外の言葉に思考が停止する。


「優しい伊織さんがそんなことするわけない!ちゃんと否定してください!そんな嘘で自分が傷つかないでください」


 まるで、自分のことのように悲しそうに涙を流す美桜。


「分かったよ。全部話すよ」






―――――――――――――――――――――――

面白かったり、続きが気になるという方はフォローや星をつけていただけると嬉しいです!

モチベーションに繋がります!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る