第9話

 聞き慣れない音で目が覚める。


「っ!」


 な、なんの音!?

 ジリリリッと甲高い音がうるさく響く。


 音の正体は目覚まし時計だった。

 でも、私のじゃない。必要ないから。

 だって、毎朝伊織さんが……


「ぁ……」


 昨日のことが脳内で流れる。


 いきなり別に暮らそうと言われたのも悲しかった。

 でも、一番悲しかったのは伊織さんに信用してもらえてなかったこと。


 知ったとき悲しみで涙が溢れた。いや、それより前に泣いていたような。


 気まずいなぁ。


 下に伊織さんがいると思うと足が思うように動かなかった。

 いつもは、伊織さんのところまで走ってたのに。


 私は重い足を動かして階段を下りた。


 リビングに行くと、そこには誰もいなかった。


 でも、朝食が机に置いてあった。一つ分。


 ……そうだよね。私のはないか。


「ん?手紙だ」


 朝食の隣にあって白い紙を手に取る。


『今日は用事あるから先行く。お前が料理したら掃除する羽目になるから作っといた。いらんなら捨てていい。戸締まりしろよ』


 頬に一筋の涙が伝う。


「私、酷いこと言ったのにっ、どうしてこんなに優しいんですかっ」


 目覚まし時計も、朝食も、伊織さんが早く出たのも、全部伊織さんの優しさ。


 分かっていた。伊織さんがどこまでも優しい人なのは。

 分かってたのに、なんであんなこと言っちゃたんだろう。


「謝ろう」


 昨日酷いこと言っちゃった。

 そして、理由を聞こう。どうして、突然あんなことを言い出したのか。


 こんなんで終わるのは嫌だ。





「あの、伊織先輩はいますか?」


 昼休みに伊織さんの教室に恐る恐る足を運んだ。


「美桜ちゃん!佐藤は今日もいないよ。昼休みなったらどっか行っちゃった」


 見慣れた先輩が教えてくれる。今日も、か。

 一緒にお昼ごはんを食べた次の日から毎日来てるけど、毎日いなかった。

 絶対逃げてる。


「どこに行ったかとか分かります?」


 私は先輩にもう一度聞く。


「分からないなあ」


 答えてくれた人が周りの顔を見渡すが、皆首を横に振る。


 皆知らないんだ……。探すところから始めなくちゃ。

 でも、まだ学校のこと詳しくない。


「もしかして伊織探してる?」


 教室の奥から一人の先輩がやってくる。

 この人、斎藤先輩……?友達がよくカッコいいとか言ってる。

 私は分からないけど。それに、彼女いるらしいし。


「はい」


「俺、場所知ってるよ?」


 斎藤先輩が笑顔を向ける。


「本当ですか!?」


 嬉しくなって声が大きくなってしまう。


「うん。案内するよ。着いてきて」


 案内までしてくれるんだ。

 斎藤先輩は伊織さんの何なのでしょう?

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