第9話
聞き慣れない音で目が覚める。
「っ!」
な、なんの音!?
ジリリリッと甲高い音がうるさく響く。
音の正体は目覚まし時計だった。
でも、私のじゃない。必要ないから。
だって、毎朝伊織さんが……
「ぁ……」
昨日のことが脳内で流れる。
いきなり別に暮らそうと言われたのも悲しかった。
でも、一番悲しかったのは伊織さんに信用してもらえてなかったこと。
知ったとき悲しみで涙が溢れた。いや、それより前に泣いていたような。
気まずいなぁ。
下に伊織さんがいると思うと足が思うように動かなかった。
いつもは、伊織さんのところまで走ってたのに。
私は重い足を動かして階段を下りた。
リビングに行くと、そこには誰もいなかった。
でも、朝食が机に置いてあった。一つ分。
……そうだよね。私のはないか。
「ん?手紙だ」
朝食の隣にあって白い紙を手に取る。
『今日は用事あるから先行く。お前が料理したら掃除する羽目になるから作っといた。いらんなら捨てていい。戸締まりしろよ』
頬に一筋の涙が伝う。
「私、酷いこと言ったのにっ、どうしてこんなに優しいんですかっ」
目覚まし時計も、朝食も、伊織さんが早く出たのも、全部伊織さんの優しさ。
分かっていた。伊織さんがどこまでも優しい人なのは。
分かってたのに、なんであんなこと言っちゃたんだろう。
「謝ろう」
昨日酷いこと言っちゃった。
そして、理由を聞こう。どうして、突然あんなことを言い出したのか。
こんなんで終わるのは嫌だ。
◇
「あの、伊織先輩はいますか?」
昼休みに伊織さんの教室に恐る恐る足を運んだ。
「美桜ちゃん!佐藤は今日もいないよ。昼休みなったらどっか行っちゃった」
見慣れた先輩が教えてくれる。今日も、か。
一緒にお昼ごはんを食べた次の日から毎日来てるけど、毎日いなかった。
絶対逃げてる。
「どこに行ったかとか分かります?」
私は先輩にもう一度聞く。
「分からないなあ」
答えてくれた人が周りの顔を見渡すが、皆首を横に振る。
皆知らないんだ……。探すところから始めなくちゃ。
でも、まだ学校のこと詳しくない。
「もしかして伊織探してる?」
教室の奥から一人の先輩がやってくる。
この人、斎藤先輩……?友達がよくカッコいいとか言ってる。
私は分からないけど。それに、彼女いるらしいし。
「はい」
「俺、場所知ってるよ?」
斎藤先輩が笑顔を向ける。
「本当ですか!?」
嬉しくなって声が大きくなってしまう。
「うん。案内するよ。着いてきて」
案内までしてくれるんだ。
斎藤先輩は伊織さんの何なのでしょう?
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