第5話
「伊織さーん、早く行きますよぉ」
玄関から美桜の俺を呼ぶ声が響く。
「一人で行け!」
何度目か分からないやり取りに怒鳴る俺。
「学校までの行き方わからないです」
「受験一人で行ってたろ」
そんな手に乗るか。
「伊織さんのけちっ」
美桜は拗ねて出ていった。
「はあ、やっと行ったか」
つか、美桜が結構粘ったせいで時間ヤバいかも。
俺は急いで家を出た。
◇
「じゃあ、クラス言っていくからな」
今日から二年生になるんだが、一年生のときの担任が順に告げていく。
「…斎藤拓也、二組。佐藤伊織、二組」
……最悪。
でも、せめて紅葉だけは別のクラスであってくれ。
「…林紅葉、二組」
クソが。神はいないのかよ。
新しいクラスに移動し、休み時間となる。
「伊織、また同じクラスだな。嬉しいな?」
来るとは思っていたけど。ニヤケ顔が苛立つ。
「まじ最悪」
拓也の後ろに立つ紅葉がスマホを弄りながら吐き捨てる。
なら、こっち来んなよ。
何がしたいんだよ、お前らは。
「失礼しまーす」
ん?
前の方から聞き慣れた声が聞こえた。
「伊織さ……伊織先輩はいますか?」
教室の出入口に美桜が立っていた。
俺は急いで立ち上がり教室の出入口へ。そして、美桜の手を取り逃げた。
◇
「どういうつもりだ?」
屋上の扉の前。そこに、俺と美桜は向かい合う。
「近くを通ったから挨拶でもと」
何の悪びれもなく美桜が言う。
「いらん」
「……だって、今日の朝冷たかったから。寂しかったです」
は?冷たかったか?普段通りだと思うが。
「心当たりないんだが?」
「はあ、そういうところですよ?」
ため息をつかれる。なんだコイツ。
「まず、顔を見て『いってらっしゃい』。ハグがあればもっと良いです。欲を言えばキスまでほしいですね。次に、私の制服姿を見て『可愛い』と言ってください。そうすれば、伊織さんの教室には――」
「美桜、これから教室に来るときはソッと来てくれ。あまり、大声出すなよ?結構迷惑だから」
俺はそれだけ伝えて美桜に背を向けた。
「ちょ、ちょっと?行ってらっしゃいと可愛いで解決できるんですよ?」
美桜が俺の背中に訴えかける。
「お前のことだ。やったとして、いつかは来るだろ」
何故、わざわざ俺の教室まで来たのか。
俺に会いに来た線もなくはないが、少し弱い。
「お前、友達できなかったんだな」
つまり、そういうことだ。
寂しかったという発言にも繋がる。
哀れな駄メイドめ。
俺は階段を下りた。
「……な、なんですとっ!?」
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