第4話

「伊織さぁん」


 俺の横に座る美桜が俺の肩にうなだれる。


「今さら結果は変わらねぇよ」


 今日は、受験の合否発表。

 美桜は時間を気にしながら顔を青くしていた。

 俺は、美桜に無理やり隣に座らされていた。


「そうですけどぉ」


「時間なったぞ」


「っ!」


 美桜が受験した高校のホームページを開く。

 そこに、自分の番号があれば合格。


「む、無理です!伊織さんが探してください!」


 美桜が俺にスマホを強引に渡す。


「番号は?」


「3861です」


 探すか。


 3840……ここら辺か。

 3857、3859、3860


「美桜」


「は、はい!」


「あったぞ」


 俺は美桜にスマホの画面を見せる。


「ああっ!」


「とりあえず、おめでとう」


 美桜がまじまじとスマホの画面を見つめる。


「伊織さーん!」


「は?」


 美桜が俺の腹に飛び込んできた。


「よがっだぁぁ」


「おい、離れろ」


 俺の腹に顔を押し付け、全力で泣いている。

 そのおかげでお腹が湿り始めた。

 どかそうにも背中にまで手を回されて無理。


「伊織さぁん」


 ……今日ぐらいはいいか。


「これで、一緒に登下校もお昼ご飯もできますね。部活は何に入りますか?」


「離れろ」


 実は余裕あるだろ。


「一緒に登下校も昼飯も部活もねえよ」


「ええ!?それだったら伊織さんと同じ高校にした意味がなくなります!」


「動機薄いな」


 冗談なんだろうが。


「おい、受かったやつは説明会行かないといけないんだろ?」


「……伊織さんと登下校、お昼ご飯、部活」


 美桜の方を見ればリビングの隅で小さく座っていた。顔は絶望に染まっていて、受かったやつの顔とは思えない。


 ……志望理由まじであれだったのか?

 落ちた人に謝れ。


「ほら、行くぞ」


「え?」


「え、じゃねぇよ。今から説明会みたいなのあるだろ?俺が保護者代わりで行くことになってるから」


「っ!」


 美桜の顔がどんどん明るくなっていく。


「登下校も昼飯も部活も無理だけど、今日ぐらいは仕方なくやってやる」


「やったぁ!」


 美桜が立ち上がって跳び跳ねた。


 はあ、何がそんなに嬉しいんだよ。

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