第3話

「ただいま」


 玄関を開けて中に入る。すると、奥からバタバタと足音が近づいてくる。


「おかえりなさい、伊織さん」


 制服姿の美桜がわざわざ玄関まで出向いてきた。犬かよ。


「買い物行ってくる」


 俺はリビングからエコバッグと財布を持って再び玄関に行く。


「着いていきます」


 俺が靴を履いていると、美桜も靴に足を入れ始めた。


「いい。お前は部屋に籠ってろ」


「嫌です」


「最近は俺が行ってたろ?気にせず部屋に籠ってろ」


 俺は再度伝える。

 ちょっと冷たい感じになってしまったが、所詮はメイド。友達ですらない。

 嫌なら、辞めればいい。


「何かありました?」


「っ!」


 言い当てられて驚く。


「言わなくてもいいです」


 美桜が真剣な表情を構える。いや、最初から真剣な表情だったな。


「お前は受験あるだろ。勉強してろ」


「なら、勝手に着いていきます」


「俺の命令が聞けないのか?」


「今だけは。だって、形だけなので」


 美桜が笑顔を見せた。


「伊織さんに何があったのかは聞きません。でも、寄り添います。伊織さんが私にしてくれたように」


 ……意志強そうだな。

 それに、俺は寄り添ったことなんてないっての。


「……勝手にしろ」


「はい!」


 美桜が笑顔で頷く。





 俺の隣を歩く美桜。

 一応、受験生なんだよな。


「……ありがとな」


「え?なんか言いました?」


 美桜がきょとんと俺の顔を見る。


「何も言ってない」


 今日だけはこの駄メイドに感謝した。






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