第1話

「伊織さんのご飯美味しいです!」


 美桜が目玉焼きを食べながら笑顔で言う。


 誰でも作れるだろ。

 あ、前に美桜が作ったら黒い物質ができてたな。

 まあ、それでも俺は難しいものを作っていない。目玉焼きにパンを焼いただけ。


「そうか。でもな、ゆっくりしてる暇ないんだよ」


 誰かのせいで時間押してんだよ。

 高一の俺はまだ間に合うけど、中三のお前は遅刻圏内だろ。


「……伊織さん、助けてぇ」


 時計を確認した美桜が涙目になる。

 自業自得だ、と言いたいが……。美桜は受験生。今遅刻するのは色々ヤバいな。


「さっさと食べろ」


「はい!」


 元気よく返事をしながらも美味しそうに食べる美桜。

 美桜が食べ終えた頃には本格的に危ないところだった。


「お前は歯磨きしろ。髪は俺がする。文句ないな?」


「はい。伊織さんの好みに」


 美桜の許可が下りたので、美桜の髪に櫛を通す。

 さらさらの黒髪は毛玉もなく櫛が何の抵抗もなく落ちていく。


 えっと、ヘアオイルだな。ヘアオイルを手に取り、美桜の髪に伸ばす。

 いい匂いするな。本当に同じシャンプー使ってんのか?


 まあいいや。次はドライヤーか?髪濡れてないし適当にやっとこ。


「ヘアアイロンは自分でやれ」


「ありがとうございますっ」


 歯磨きを終えた美桜がアイロンを手に取る。


 俺は洗面所を後にした。





「行ってきまーす」


 玄関から美桜の大きな声が響く。


「早く行け」


 声を張って美桜に伝える。


「はーい。行ってきまーす」


 はあ、騒がしいな。


 さて、俺も準備を、


「行ってきまーす」


 ……速く行けよ。

 いつまで、そこにいるんだよ。

 扉開く音聞こえないって思ったんだよな。


「行ってきますよ?本当に行きますからね?伊織さーん、聞こえてますかぁ?」


「早く行け!」


 俺は玄関に行き、そこに靴を履いて立っていた美桜に怒鳴る。


「はい。行ってきます」


 美桜が瞳に俺を写して告げる。


「……いってらっしゃい」


 ため息混じりに送り出す。


 美桜は笑顔で扉を開けた。


 はあ、何だったんだよ。








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