第1話
「伊織さんのご飯美味しいです!」
美桜が目玉焼きを食べながら笑顔で言う。
誰でも作れるだろ。
あ、前に美桜が作ったら黒い物質ができてたな。
まあ、それでも俺は難しいものを作っていない。目玉焼きにパンを焼いただけ。
「そうか。でもな、ゆっくりしてる暇ないんだよ」
誰かのせいで時間押してんだよ。
高一の俺はまだ間に合うけど、中三のお前は遅刻圏内だろ。
「……伊織さん、助けてぇ」
時計を確認した美桜が涙目になる。
自業自得だ、と言いたいが……。美桜は受験生。今遅刻するのは色々ヤバいな。
「さっさと食べろ」
「はい!」
元気よく返事をしながらも美味しそうに食べる美桜。
美桜が食べ終えた頃には本格的に危ないところだった。
「お前は歯磨きしろ。髪は俺がする。文句ないな?」
「はい。伊織さんの好みに」
美桜の許可が下りたので、美桜の髪に櫛を通す。
さらさらの黒髪は毛玉もなく櫛が何の抵抗もなく落ちていく。
えっと、ヘアオイルだな。ヘアオイルを手に取り、美桜の髪に伸ばす。
いい匂いするな。本当に同じシャンプー使ってんのか?
まあいいや。次はドライヤーか?髪濡れてないし適当にやっとこ。
「ヘアアイロンは自分でやれ」
「ありがとうございますっ」
歯磨きを終えた美桜がアイロンを手に取る。
俺は洗面所を後にした。
◇
「行ってきまーす」
玄関から美桜の大きな声が響く。
「早く行け」
声を張って美桜に伝える。
「はーい。行ってきまーす」
はあ、騒がしいな。
さて、俺も準備を、
「行ってきまーす」
……速く行けよ。
いつまで、そこにいるんだよ。
扉開く音聞こえないって思ったんだよな。
「行ってきますよ?本当に行きますからね?伊織さーん、聞こえてますかぁ?」
「早く行け!」
俺は玄関に行き、そこに靴を履いて立っていた美桜に怒鳴る。
「はい。行ってきます」
美桜が瞳に俺を写して告げる。
「……いってらっしゃい」
ため息混じりに送り出す。
美桜は笑顔で扉を開けた。
はあ、何だったんだよ。
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