助けた女の子がメイドになったんだが、家事スキル0の駄メイドだった

猫丸

プロローグ

 目覚まし時計が眠りを覚ます。


「ん、ふぁあ」


 リビングに行く。そこには誰もいなかった。


「はあ、美桜みおのやつまだ寝てんのか。いや、朝食作られても困るんだが」


 複雑な心情に俺はため息をつく。

 そして、しぶしぶ台所に立つ。





「おーい」


 俺の部屋の隣。扉に、『みおと伊織いおりさん(上から二重線)の部屋♡』というバカなボードが掛かっている。

 声を上げながらノックをする。


 いつも通り返事はない。

 はあ、仕方ないか。


「入るぞ?」


 部屋の扉を開けて中に入る。

 女の子らしいとは言えない、あまり物が置いてない部屋だ。

 机に本棚、タンスにベッドなど最低限のもの。

 そして、そのベッドに穏やかな表情で眠っていた。


 艶のある肩まで届くぐらいの黒髪。長いまつ毛、小さな唇、スッと通った高い鼻。

 可愛いとは思う。モテててるのかは知らん。


「おい、いつまで寝てんだよ」


 なかなか起きない美桜の肩を毛布越しから揺する。


「ん、あと10分」


「それ、毎日言わないと死ぬ病気なのか?」


「すぅ」


 はあ。面倒臭くなってきた俺はいつも通り美桜の毛布を剥がす。


「っ!ちょっ、おい!!」


 動揺しすぎて舌が回らない。

 俺は一瞬にして毛布を美桜に投げつけた。


 慌てていたから狙いは下手くそで、美桜の顔は隠れ足は太ももが付け根辺りまで露出していた。


「んん……ぁ、伊織さんおはようございましゅ」


 毛布の中から猫のような撫で声が聞こえる。

 モゾモゾと毛布が蠢き、美桜が体を起こす。


 すると、当然ながら毛布は落ちていくわけで、ゆっくりと顔が露になる。

 そして、体も露になる。

 俺はそっと後ろを向く。


「おい」


「はい?」


「服は?」


「暑かったから脱ぎましたっ」


 美桜が元気よく答える。


「……今、2月だぞ?」


「はいっ」


 暖房の温度下げろ。


「……あ、そういうことですか。伊織さんも男の子ですからね。これもメイドの仕事……良いですよ、伊織さん」


「何が『これもメイドの仕事』だ。家事できない分際で」


「酷いこと言いましたね!できますよ!」


 美桜が心外だとばかりに抗議の声を上げる。


「嘘言うな」


 料理下手、洗濯はできない、掃除したら逆に汚れる。

 美桜ができることなんて買い物ぐらい。


「……いいんですよ!メイドなんて形だけなんですから!」


 開き直った。


 言ってることは正しいんだけど。


 半年前に美桜を拾って、美桜はメイドとしてここに住んでいる。俺の親は海外にいるから、同棲ってことになる。


 形だけって言うのは、美桜がお金を受け取ってないから。代わりに俺は衣食住を提供してる。


 メイドにこだわるのは、お互いに『メイド』という立場を利用しているだけ。


 美桜は、たぶん俺との関係を繋げるため。そうして、衣食住を得る。

 俺は、美桜との関係をメイドと主人の主従関係で終わらせるため。それ以上の関係にはさせない。


 でも、こいつ本当に家事できないんだよな。

 こんな駄メイド拾わなければよかった。









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