一線

 気がつけば、ふたり歩いている

 女とふたり歩いている

 女はわたしの腕をとり、

 波打ち際を歩いている

 波がゆらゆらと足元を過ぎる

 女は足を濡らさずに

 器用に器用に歩いている

 かもめがとぶ

 女が指をさす

 かにが歩く

 女がひざまずく

 やがてわたしたちは

 ある一線にたどりつく

 わたしがまたぎ越す

 女は

「嫌よ、嫌よ」

 と言い、拒む

 わたしのうでを引き

 もとに戻そうとする

「どうしてこえない」

 たずねると

「わたしじゃなくなるわ」

 と言う

 どうにもならぬので

 そこに立ち尽くしていると

 水平線から日がのぼる

 黄金の光が

 わたしたちをつつむ

 女は

 あっと

 わたしにしがみつき

 そうして

 次の瞬間には

 消えてしまっていた。


 ※※※


 いつもある一線があり、一度こえてしまうと、私にはもう戻れなくなっています。私は私のままであり、昨日までの足跡を指さして辿ることもできます。けれどそうしている間にも、それは私からは遠くなり、おぼろになっていってしまう。

 それには足跡がありません。生まれた空白を現実の足跡で埋め変え、私はまた歩き、繰り返すのです。


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