第14話

 アルメリアが高速移動をしながら射撃を始める。

 シャムルと呼ばれる化け物は、それを回避することなく全弾体で受け止めた。

 効果はやはりない。何発当てても奴は平然としている。


「中地ってだけでこんなレベルなの? くそっ、どこか弱点は……」


「あんまり動かないで―。手間がかかるから」


「黙って俺の攻撃を受けて、死ね!」


 シャムルは羽を動かしながら、体を回転させていく。

 不愉快な羽音を立てながらゆっくりとシャムルが上昇する。

 横回転しながら宙を浮く奴の体は、まるで独楽のようだ。

 そして弾かれたようにシャムルは、アルメリアの方へと飛んでいく。

 

「そんなの食らえるわけないでしょ!」


 アルメリアは大量の冷や汗をかきながら、シャムルの攻撃を回避する。

 ホッとため息を漏らす彼女であったが、シャムルの飛んでいった方向を見て、仰天していた。


 シャムルは回転を続けたまま、ブーメランのように戻ってくる。

 狙いは当然アルメリア。

 彼女は射撃をしながら、回避行動をした。

 

「攻撃は効かないし、食らったらアウトな攻撃してくるし……どうしようかしら」


 バサラから聞いた話だが【ガーディアス】と王族、その両方には攻撃に耐えるための障壁を張れるようだ。

 障壁は、物理的な攻撃に対処できるもの、エーテル攻撃に対処できるものという二つに分類できるみたいで、シャムルにはエーテルが通用しないと見える。

 だが可能性としてはもう一つ。両方に対しての防御能力が高いとうこと。

 エーテルも通用せず、物理攻撃も通用しないとなると厄介だが……こいつはどうなんだ?

 アルメリアは物理攻撃手段を持ち合わせておらず、それを確認することも不可能。

 どのみち奴を倒せるのはイオしかいない。

 イオは物理攻撃を得意としており、対処できるのは彼女の方だ。


「これならどう――行きなさい【フノルス】!」


 アルメリアの【ガーディアス】の四枚羽のうち、下左右の羽が彼女のもとを離れ、その羽は五枚づつ、計十枚に分解される。

 そして分解されたパーツからエーテルの刃が生じ、彼女の周囲に滞在していた。

 刃と化したパーツは不規則な動きで、シャムルへと急接近。


 シャムルの体を斬りつける【フノルス】。

 刀と刀が切りつけ合うような音が響くが――これも相手には通用していない。

 あれもエーテル攻撃のようだし、アルメリアは奴の障壁を突破する火力がないのだ。


 アルメリアの顔に焦りが浮かぶ。

 どうしようもないことを悟ったのか、相手の攻撃に当たらないよう、回避に集中しだした。


「うっ」


 【フノルス】を放出した影響か、アルメリアの動きが遅い。

 そうか。あの武器は機動力を犠牲にする攻撃だったんだ。

 アルメリアの左腕にシャムルの攻撃が掠る。

 しかし掠っただけのはずなのに、凄まじい威力があったようで激しく弾き飛ばされた。


 【フノルス】がアルメリアの背中に戻り、機動力を取り戻すも、シャムルは攻撃の手を緩めない。


「てめえみてぇな女が漏らす死の絶叫は好きだからよ、全力で叫べや!」


「避けてても時間の無駄だから、食らってねー」


「食らうわけないでしょ!」


 防御一辺倒のアルメリア。倒すことはできず、避け続ける彼女を見て、俺は歯を鳴らす。

 俺の攻撃が当たれば……でもあの速度についていけない。

 どうすればいい……どうすれば俺の攻撃が当てられる?


「貴様、シャムルだな……お前は私が殺す!」


 風のような迅さで奇襲を仕掛けるのはイオ。

 近くで戦っていたイオが、援護に来てくれた。

 イオの攻撃ならあるいは……


 俺は拳を握り、彼女の登場に歓喜する。

 イオは【ヴィシュラーナ】をシャムルの背中に容赦なく突き立てる。

 火花と耳を防ぎたくなるような音が散り、武器が徐々に甲羅に侵入していくような気配があった。

 

「うっ!」


 だがイオの武器はそこで弾かれてしまう。

 高速回転中のシャムルは、防御力も上昇しているのか。はたまた素の防御能力が高いのか。どちらにしても、イオの攻撃もまた通用しなかった。


「相手が止まるのを待った方がいいかもしれない。止まっている状態なら、攻撃が通るかも!」


「止まっている状態って……どうやって止めるのよ、あれを!」


「どうやってって……そうだ!」


 相手の速度についていけない俺だが、でも攻撃を届かせる手段はある。

 効くかどうかは定かではないが、試してみる価値はあるはずだ。


 俺は光の剣を作り、シャムルの動きに集中する。

 シャムルはアルメリアだけではなく、参戦したイオのことも狙っているようだ。

 イオとアルメリアは回転を続けるシャムルに対して、射撃で応戦しているが、あれではダメージを期待できない。

 俺の武器も通用するかどうか……失敗したときのことを想像するとゾッとするが、生きるための抵抗はさせてもらう。


「アルメリア、イオと動きを合わせてくれ。作戦があるんだ」


「な、なんで私が……ああ、もう。分かったわよ。その代わり上手くいかなかったら、後で文句言うわよ」


「文句ぐらい、生きてたら好きなだけ聞くよ」


 イオとアルメリア、その両方を狙われては動きが読みにくい。

 だが二人が動きを合わせてくれると、動きは単調になるだろうから、狙いを定めやすくなる。


 アルメリアがイオに近づき、同じような動きで回避を始めた。

 シャムルはそれを見て、二人を同時に狙う方向にシフトしたようだ。

 こちらの思惑通りに行動してくれた。

 これなら狙いやすい。考え通りに動いてくれてありがとう。


「ここだ!」


 シャムルは決まった軌道を行ったり来たりしているだけで、タイミングさえ掴めば当てるのはそう難しくない。

 一対一なら絶対に敵わないが、残念ながら俺は一人じゃなんだ。

 イオとアルメリアがいる。俺は二人と協力して、お前を倒させてもらう。


 シャムルが軌道を切り替える瞬間、動きが一瞬だけ遅くなる。

 その瞬間を狙い、俺は光の刃を伸ばした。

 攻撃は命中。シャムルの体の回転は止まらないが、刃は相手の腹部辺りに触れる。


「このっ……飛んでいけ!」


 シャムルを吹き飛ばしてやろうと力を込める。

 刃はしなり、今にも折れそうな雰囲気。

 だがそれより前に、シャムルの体が上へと軌道を変化させる。


「なっ!?」


「嘘ー」


 刃が触れた感じ、斬ることは不可能だと思った。

 伸ばした刃では威力が低下するのだろう。


 シャムルは起動を修正するような動きをみせるが――俺の作戦はこれで終わりじゃない。


「リュー、頼む!」


 リューがシャムルの頭上から急降下する。

 そう。俺の攻撃だけで動きを動きを止められるとは思っていない。

 だが奴を吹き飛ばしたリューの協力があれば――」


「リュー」


 リューが突進するとズドンと大きな音が鳴り、シャムルが地上へ向けて落下する。

 勢いよく地面に突き刺さるシャムル。動きは完全に停止した。


「よくやった、リュー!」


「今なら行ける、これを食らえ!」


 イオが閃光となり、シャムルに武器を突き立てる。

 突進する勢い。【ガーディアス】の重量。そして【ヴィシュラーナ】の威力。

 それらが合わさったあの一撃は半端なものではないだろう。

 再び火花が散り、シャムルの甲羅にヒビが入っていく。


「このまま押し切る!」


「やったわね、ヒビキあんたのおかげで――」


 後は切り裂くのみ。

 そう思っていた俺たち。

 勝利にアルメリアは安堵していたようだが、そこでシャムルが思わぬ行動に出る。


「なんだと――」


 大地に埋もれながら回転を再開させるシャムル。

 それから奴の全身から放出させる緑色の刃。

 その刃は人間を優に切り裂けるほどの大きさを誇り、そして驚愕することにその刃は一枚や二枚じゃない。

 数えきれないほどの刃を生み出し、無差別に周囲へ暴力を振る舞う。


 その中の一撃が、イオの腹部を切り裂く。

 上空に弾かれ、それから落下するイオの体。

 俺は時間が停止してしまったかのように、彼女が倒れる姿を眺めるばかりであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る