第27話 かっこよくて痺れたのです!

「酷いのです! 酷すぎるのです!」


 クレイさんの部屋に戻ってくると、私はテーブルの上で寝そべり、バシバシとテーブルを叩いたのです!


「いや、何も酷くねぇだろ」


「あんまりなのです! クレイさんのためを思って頑張ったのに! 別にいいとか……、あんまりなのですー!」


 私はテーブルに突っ伏し泣いたのです!


「前から言っていたろ、この部屋も気に入ってるし、待遇ももう慣れたって」


「私が嫌なのですー!」


「困った奴だなー」


 クレイさんは頭をがしがしとかいたのです。


「何が望みだよ、奥さん」


「……式典」


「ん?」


「私とクレイさんの式典……、開いてほしいのです……」


「女ってパーティーとか賑やかなの好きだよなー」


「私は賑やかだから好きなわけじゃないのです……。ちゃんと、お祝いしてほしいのです……」


「…………」


「等価交換という名の、人質みたいに嫁ぎましたが、私はクレイさんと出会えて幸せなのです……」


「…………」


「クレイさんが、大好きなのです……」


「だぁー! わかった! わかったよ! 後で親父に聞いてみるから!」


「……“親父”」


 “王”でなくて“親父”。


「ふふっ、これでこそ家族なのです」


「ったく」


「もう一つ、お願いがあるのです」


「何だよ」


「王子らしいクレイさん。見てみたいのですい」


「は?」












 一ヶ月後。


「あー……、ダメだ、もう脱ぎてぇ」


「ダメなのです! クレイさん! まだ着たばかりなのです!」


「着たろ? 見たろ? 満足したろ? 脱いでいいだろ?」


「まだ満足してないのですー!」


 私とクレイさんは、お城の正面にあるバルコニーの前で悶着していたのです。


 今日は私とクレイさんの祝宴式典!

 お城の前にはたくさんの人が、種族関係なく集まってくれているのです!


 そして、クレイさんは、


「このカチッとした感じが苦手なんだよなー。あー! 早く脱ぎてー!」


 儀式用の紺の軍服、金の肩飾りエポーレット飾緒エギュレット、クレイさんの瞳のような赤いたすきサッシュに、紺色のパンツに黒のブーツ、紺のマントと手袋という、ザ・王子様な格好をしているのです!


 とてもかっこいいのです! なのに!


「あー! 首らへんがムズムズする! あー! 早く脱ぎてぇ!」


「…………」


 まだ着て数分なのに、もう脱ぎたがっているのです!


「私は王子様らしいクレイさんを見れて嬉しいのです……」


「…………」


「妻の願いを叶えるのが、良き夫だと、お父様が言っていたのです……」


「…………」


 私は特注で作ってもらった、純白のきれいな花レースのドレスを着て、クレイさんの肩の上でしょんぼりしたのです。


「王子、時間です」


 従者の方が呼びに来たのです。


「はいはい」


 しょんぼりした私を乗せたまま、クレイさんは窓を開けて、バルコニーに出たのです。


 すると、「わぁ!」と、歓声が上がり、たくさんの人がキラキラした瞳で、私たちを見上げたのです!


 クレイさんは、本当は、こんなにたくさんの人に慕われていたのです。

 こんなにたくさんの人が、私たちをお祝いしてくれているのです。

 とても嬉しいのです! 嬉しいのです、が……、クレイさんは乗り気じゃないみたいなのです。しょんぼり倍増なのです……。


「……妻の願いを叶えるのが、良き夫、な」


「みゅ?」


 見上げると、ふっと意地悪そうな、でも、自信がある、そんな笑みが降ってきたのです。


 クレイさんは前を見据え、一歩、二歩と前に出ると、


「まずは今日! ここに集まってくれた事を感謝する!」


 声を張り上げたのです! 顔も何だか引き締められてキリッとしていて、本当に王子様みたいなのです!


「そして謝りたい! ここメネストルを信用し! 訪れてくれていた観光客! 商人! そして、国民! 無関係な人たちを我が家臣の不適切な行為により巻き込んでしまった事を! 申し訳なかった!」


 クレイさんは深々と頭を下げたのです。


 町の人からは、「クレイ王子は何も気にすることないですよー!」とか、傭兵さんの「アニキはよくやっていましたぜ!」という声が聞こえたのです。


 それを聞き、クレイさんは安堵したように笑うと、顔を上げたのです。


「今回の件で私は改めて考えた! 国とは何か! 何のための騎士団か! 国は王家ではない! 命だ! 国民の命だ! その命を守らずして何が騎士団か! 今! 私はここで! 騎士団条例の撤廃を断言する!」


 「おぉー!」という歓声の中で、変態さんとウルスさんが「やってくれたぜ」と頭をかいていたのです。


「そして! 絶対王政も廃止し! 親しみやすい王家を! 国を目指す! 国民の意見を取り入れない政治など! 王家がする事ではない!」


 さらに高い「うおぉー!」 という歓声が聞こえたのです! 私も肩の上で聞いていて! かっこよくて痺れたのです!


「大体、堅苦しいの苦手だしな、俺は」


「みゅ?」


 口調が元に戻ってしまったのです。


「それに、王家とか、肌の色が違うとか、身分とか種族とか。色んなもん飛び越えて仲良くできるはずだ」


 クレイさんは私を見ると、


「って、そんなようなことを、俺の奥さんが言っていたぜ」


 ウインクしたのです!


 「おぉー!」という歓声と、「奥さんどこにいるかわかりませーん!」という声。


「私は! ここなのでーす!」


 クレイさんの肩の上でピョンピョン跳ねたのです!




⌘⌘⌘⌘


 あとがき。


 「国とは人」と書きかけ、やめました。意図してやったわけじゃないとしても、某海賊漫画の偉大な王と被るー! と(苦笑)

 でも、クレイに言わせたかったなー!


 あ、次こそ、最終話です!

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