第25話 なるのです

 太陽市場ソーレ・メルカートまで来ると、酷い惨状だったのです。


 商売をしていた巨人族ジガンテ小人族ホビトンなど、無関係な人まで襲われていたのです。

 商品の果物や野菜が地面に転がり、踏み潰され、それを悲しんでいると刺されたりしているのです!


「お前ら! 国民もそうだが! 巨人族ジガンテ小人族ホビトンなどの商人も守れ!」


「へい!」


 クレイさんも剣を抜き、血を流させないように剣の柄で、首裏などを突いて気絶させていくのですが、キリがないのです!


「人数に差がありすぎるなっ……!」


 クレイさんは苦しそうに手の甲で、汗を拭ったのです!


 でも、本当に差がありすぎなのです!

 クレイさんの傭兵団がいても! 暴動の半分にも満たないのです!


 このままでは! たくさんの血が流れるのです!


「…………」


 私は、小人族ホビトンと獣人のハーフ。


 小人族ホビトンと獣人しか使えない魔法があるのです。


 でも、それは、禁忌とされているのです。


 何故ならば、小人族ホビトンと獣人では、体格も寿命も違い、魔力も違うのです。

 平行が保てない二つ、その間に立つ私。

 あの魔法を使えば、どうなるかわからないのです。前例がないので、誰もわからないのです。


「…………」


 目を閉じて、お父様との会話を思い出していたのです。



『マルや』


『はい』


『お前は、奇跡の子じゃ。今まで我々小人族ホビトンと獣人が結ばれても、子を授かる者はいなかった。母子共に亡くなるものばかりだった』


『はい』


『そんな中、産まれた命、それがマルじゃ。だから、マル。小人族ホビトンと獣人、……いいや、全ての種族の、架け橋になっておくれ』


『——はい!』



「——なるのです」


 架け橋に!


 クレイさんの肩、そして、首から頭へ登り立ち上がったのです!


「マル?」


小人族ホビトン巨人族ジカンテ人間族ヒューム。全ての命よ、衝動よ。静まれ! 静寂月シランス・ルーナ!」


 小人族ホビトン、獣人、異なる魔力を掛け合わせ、上空に巨人族ジガンテより大きな魔法の満月を出現させたのです!


「な、何だ……、これ……」


 みんな、月を見上げると、力が抜けたように座り込んだのです。


 それもそのはず!


 これは、私たち小人族ホビトンの神とされている、月と愛の女神セレミスと、獣人が信仰しているとされている大地の女神レアルの、力を掛け合わせた! 二つの血が流れている! 私にしかできない魔法!


「なのですー……」


 なんだか、力が抜けて、い、く、のです……。


「おい! マル!」


 ふらっと、クレイさんの頭から落ちて、大好きな両手に受け止められた、のです……。


 ああ……、あったかい、のです……。

 このまま、眠り、たい、の、です……。


「マル!」


 んー? 何だか、体が小さく、なった感じがするのです……。


 体が小さく?


「みゅ?」


 起き上がってみると、体の大きさが半分になっていたのです!


「えらいこっちゃなのですー! さらに小さくなったのですー!」


 私が頭を抱えていると、


「はぁー……」


 クレイさんが深いため息を吐いて、座り込んだのです。


「みゅ? どうしたのです?」


「どうしたのです? じゃねぇよ。死んじまったかと、思っただろ……」


 クレイさんは髪の毛をぐしゃぐしゃっと、かき乱したのです。消え入りそうな声に、なんだか申し訳なくなったのです……。


「ご、ごめんなさいなのです……」


「マジで勘弁してくれ。俺はもう——」


「みゅ?」


 言葉が途切れたので見上げると、


「——俺はもう、お前なしの生活なんて、考えられないんだからよ」


 照れ臭そうな、でも、寂しそうな笑顔が降ってきたのです。

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