第24話 さらに熱くなったのです

「悪は成敗される! なのです!」


「……マル」


「はいっ、ごめんなさいなのです!」


「ふはっ、謝るの早ぇな」


「わかっているのです、たくさん心配かけたのです。だから、ごめんなさいなのです……」


 胸ポケットの中でしょんぼりしていると、


「わかりゃいいんだよ」


 また旋毛をぐりぐりされたのです!


旋毛つむじぐりぐり禁止なのですー!」


「ははっ!」


「——……」


 このクレイさんの、くしゃっとした可愛い笑顔を見ると、全部、許してしまうのです……。









 翌朝。


「むにゃ……?」


 外の騒がしい声で目が覚めたのです。


「——マスケラが言っていたのは、こういう事か……」


 既に起きていたクレイさんは、窓から外を見下ろし、苦虫を噛み潰したような顔をしていたのです。

 気になって、クレイさんの体を登り、肩に飛び乗り見えたのは、


「——クレイさん! これは!」


「……ああ、暴動だ」


 隣国の人たちが武器を手に攻め込んで来ていたのです!


「何故! 攻め込まれているのです!?」


「夜中にでかい音が聞こえたろ?」


「確かに、大きな音が聞こえ、一度、目が覚めたのです」


「砲撃だ。俺は詰めが甘かったんだ!」


 クレイさんは歯を食いしばり、窓のふちをドン! と叩いたのです!


「大砲、爆薬、マスケラの配下! 全部取っ捕まえておくべきだった!」


「と、いうことは……」


「奴の手下がレアンツァに夜中に奇襲をしかけた! それに憤怒した市民たちが攻め込んで来たんだ!」


 クレイさんの部屋からは、塔の上の部屋からは、よく見えるのです。

 町が、砲撃や火のついた弓矢により、燃えていくのです。人々は、燃え盛る家で倒れていくか、外に出たところを狙われて、命を、落としていくのです……。


「こうしちゃいられねぇ!」


 クレイさんは窓際に立てかけられていた剣を手に取り、部屋を飛び出したのです!







 螺旋階段を降りたところで、


「「クレイ王子!」」


 変態さんとウルスさんに会ったのです!


「ここはどうなってる!?」


「王城と王家関係者の警備は固めました! ですが……」


 変態さんが眉をひそめたのです。


「こちらの方に警備を集中せよという、王の指示により、国民の守りが手薄になっております……」


「そんなことだろうと思ったぜ!」


 クレイさんは大きな扉を開け、王城を出たのです!


「王子! 何か手はあるんですか!?」


 変態さんの言葉に、


「何もないまま飛び出るほど馬鹿じゃねぇさ!」


 クレイさんは振り返りながら、ふっと笑ったのです!

 そして、親指と人差し指を口に含むと、ピィー! と、指笛を鳴らしたのです!


 すると、


「アニキ! 出番ですかい!」


 黒や焦茶色の革鎧を着た人たちがたくさん集まって来たのです!


「その呼び方はやめろっつってんだろ!」


「クレイさん! この人たちは!?」


「俺が密かに集めて作っていた傭兵団だ」


「傭兵団!」


「ああ。腕っ節は強いのに、身分が低いとかで騎士団に入れない連中だ」


「荒くれてやさぐれていたとこを、アニキが拾ってくれたんでさー」


「アニキ様様なんでさー」


 見た目は厳つい人たちばかりだけど、なんか良い人みたいなのです!


「お前ら!」


「へい!」


「国民を守れ!」


「へい!」


「けど! レアンツァの奴らはなるべく傷つけるな!」


「無茶言いますなー」


「できんだろ? お前らなら」


 クレイさんがニッと笑うと、


「もちろんでさぁ!」


 「うおおぉー!」と声が上がり、一気に士気が高まったのです!


「行け!」


 傭兵さんたちが走り出すと、クレイさんも走り出したのです!

 私も何か役に立ちたいのです!


「クレイさん! 魔法なら任せるのです!」


「ああ! 頼りにしてるぜ!」


「アニキ! その胸ポケットにいるのはっ、ぬいぐるみアニマーレ、ではないですよね!」


「ああ! 俺の奥さんだ!」


「奥さん! ああー! 嫁いできたという小人族ホビトンですかい!」


「はいなのです! よろしくなのです!」


 敬礼すると、傭兵さんが私をちらっと見たのです!


「なんか、ちっさいのにすげーパワフルですねー」


「だろ? 俺の自慢の奥さんだ! やらねぇぞ!」


 クレイさんはいつものように飄々ひょうひょうと言ったのです!

 私は嬉し恥ずかしでドキドキして。私ばっかりドキドキしてずるいと思っていたら、ポケット越しのクレイさんの鼓動は、私と同じくらい速くて。見上げると、クレイさんの頬はほんのり赤くて。私はさらに熱くなったのです。

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