第23話 夫婦で阻止できたのです!

「これで、砲弾を作り、ぶっ放せば」


「町一つ、木っ端微塵」


「「はっはっは!」」


「——……」


 なーんにも! なーんにも! ひとーつも! 面白くないのです!

 物騒な事ばかり言っているのです! 戦争でも始める気なのです!


「最近、隣国の奴らが。レアンツァの奴らが、武器を放棄しろとうるさい。これは俺の私物、贅沢品だというのに」


 防衛大臣と思われる、身長が高く高級そうなスーツを着たスキンヘッドの人間族ヒュームは、苛立ったように頭を撫で回したのです!


「だから、一発、ぶっ放してやろうと思ったのさ」


「みゅ?」


 人の悪い、悍ましい笑みを浮かべた大臣さん。


「物理的な口封じですな」


「そういう事だ」


「そっ……」


 そんなのは!


「戦争の幕開けではないのですー!?」


「ん?」


「は?」


「はっ!」


 しまった! なのです! 声に出してしまっていたのです!


「お前はあの時のクソチビ!」


「クソチビではないのです! 小人族ホビトンなのです!」


「今日はお前一人か?」


「そうなのです!」


「——……」


 怪しい商人さんはニヤリと笑い、大臣さんとコソコソ話し始めたのです!


「なるほどな」


「そうです。このクソチビを捕らえれば」


「「汚泥狼ファンゴウルフを大人しくできる」」


 同時にこちらを向くと、ニタァと思いっきり口を開けて笑い、両手を動かし始めたのです!

 こういう時は!


「逃げるが勝ち! なのです!」


 くるりと踵を返し、猛ダッシュ! なのです!

 でも! 私のダッシュは人間族ヒュームの一歩と同じくらいの速さ! あっという間に追いつかれてしまったのです!


汚泥狼ファンゴウルフのいないクソチビなんざ、ぬいぐるみアニマーレ以下だ! このままゴミと燃やしてや——」


 そして、後ろ襟を掴まれ、


「呼んだか?」


 なかったのです! クレイさんがすんでのところで持ち上げてくれたのです!


汚泥ファンゴ……、クレイ王子……」


「マスケラ。いくら俺が汚泥狼ファンゴウルフで、王位継承権がないとはいえ、人の妻を拉致ろうなんざ、人間の、それも、防衛大臣がする事じゃねぇぞ」


「いや、我々は奥様を送り届けようと……」


「はっ、どうだか。どうせそこの胡散臭い奴と、悪巧みしていたんだろ。そっちの奴は、マジで、メネストルここで商売できなくなってもいいみたいだなぁ?」


「うっ……」


 クレイさんのドスの効いた声と、鋭い射抜くような眼光は、妻の私でも怖いのです……。


「悪巧みだなんて……、珍らしい装飾品を見せてもらっていただけで……」


「違うのです! クレイさん! 再生リプロジュース!」


 目をぎゅっと閉じ、パッと開くと、壁にさっきの二人の映像が映し出されたのです!


『今日は何が入った?』


『これです、“ラジ化鉛”です』


『ほぉ、よく手に入ったな』


『入手経路は秘密という事で。これを大臣がお持ちの大砲の砲弾にすれば、着実に爆轟ばくごうを起こします』


『ほほぉ』


「——……」


 二人が口をパクパクさせる中、


「へーえ」


 クレイさんは私を胸ポケットに入れつつ、ふっと笑ったのです!

 映像は続くのです!


『これで、砲弾を作り、ぶっ放せば』


『町一つ、木っ端微塵』


『『はっはっは!』』



『最近、隣国の奴らが。レアンツァの奴らが、武器を放棄しろとうるさい。これは俺の私物、贅沢品だというのに』


『だから、一発、ぶっ放してやろうと思ったのさ』


『物理的な口封じですな』


『そういう事だ』


 映像が一通り終わると、


「だってよ、変態」


 クレイさんは振り返ったのです。クレイさんの肩に跳び乗り、後ろを見てみると。


「もぉー、王子は早速、人使い荒いんですからーん!」


 変態さんが、柱の影からくねくねぷんぷんしてやってきたのです!


「見ていたな?」


「はっ!」


「騎士団は?」


「王家を守るものです!」


「こいつらは、王家の安全を?」


「はっ! 妨げようとしております!」


「よって?」


「連行します! ウルス!」


「はいーっと」


 反対の柱の陰から、ウルスさんが現れたのです!


「お前ら! 上司である俺を捕えるのか!?」


 両腕を掴まれ、連行されそうになり、二人を大臣さんは睨んだのです!


「だってぇーん。その上司様が作ってくださったー、騎士団条例にー、書いてありますものー」


 腕に力を込める変態さん。


「メネストル共和王国騎士団条例、第三条、第五項。王国騎士団は、王家の安全を防衛するものなり。役職、身分、種族に例外は無しとする。ですよねー?」


 ニッコリ笑い、がしっと腕を掴み直したウルスさん。


「お前たちはこのキモオヤジを捕えなさい」


「はっ!」


 騎士団さんたちがわらわらと現れ、商人さんも捕えられたのです!


「お、覚えてろよー! 汚泥狼ファンゴウルフー!」


「王子といえど! 俺を! 大臣の俺を捕らえた事を! 後悔させてやるからなー!」


「あー、はいはい」


 クレイさんは面倒くさそうに、ひらひらと手を振ったのです。


 こうして、大臣さんの悪巧みを! 夫婦で阻止できたのです!

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