第18話 えいえい、おー! なのです!

「ですが! これで変態団長さんもわかったのです!?」


「だから! 変態じゃないわよ! 美の追究神ついきゅうしんと呼んでちょうだいっ」


変態神へんたいしんさんは」


「そっちとくっつけるんじゃないわよ!」


「ははっ!」「ふはっ!」


 ウルスさんとクレイさんは同時に笑ったのです。


「では、変態団長神さんは」


「あーっ、もうっ。ややこしいからただの変態でいいわよ!」


「変態さんは、これで、クレイさんの強さがわかったのです?」


「クレイ王子の強さ? そんなもん昔からわかっていたわよ」


「みゅ?」


「あれは、そう……。王子が六歳の時でしたか。城の宝を狙った賊が侵入したのは」


 変態さんが、懐かしげに、でも悲しそうにクレイさんを見たのです。


「賊が入ったと聞き、私は団員を招集し、王の指示通り、王と王妃、そして宝、クレイ王子以外の皇子たちを守りました」


「そうだったな」


 苦しそうに話す変態さんとは逆に、クレイさんはいつも通りなのです。


「賊を全て捕らえたと思っていましたが、聞いていた情報だと一人足りない。一体どこだ、と思ったら、螺旋階段から左目を斬られ、血を流しながら王子が下りてきて、こう言ったんです」



『俺の部屋で賊は捕らえた。王と王妃や兄さんたち、そして、国民は無事か?』



「と。賊と奮闘したであろう手足の切り傷。何より、左目を縦に大きく斬られた出血。おそらく王子が一番重傷だったろうに。王や民を思う心。私はあの時、痺れ、惚れました。ああ、次の王は、この方しかいない、と」


「じゃあ何で! クレイさんを守ってくれないのです!?」


小人族ホビトンちゃん。いいえ、奥方様。私は騎士団の長を務める者。私の言動一つ一つに、団員の生活、給与、そして、家族が、かかっているのです」


 変態さんは眉を下げ、申し訳なさそうに微笑んだのです。


「ここメネストルは絶対王政。だから、王に逆らうわけにはいかないのです」


「ぐむむー……」


 ごもっともなのですー……。


「だからねーんっ。苦しいアタシの気持ちもー、わかってほしいのーんっ」


「あ、口調が戻っちまった」


「ウルスは黙らっしゃい!」


「でもでも! ということは! 表には出さないけど! クレイさんの味方なのですね!?」


「もちのろんよー。次の王はーん、クレイ王子しかいないわーんっ」


「王位継承権ねぇけどな」


「クレイさんは黙ってるのです!」


「はいはい。ペルブランかよ、お前」


「えっと、クレイさんの奥様?」


「ウルスさん、私はマルというのです。だから、マルと呼んでほしいのです!」


「では、お言葉に甘えて。マルさん」


「はいなのです!」


「オレも、クレイ王子の味方です。いや、多分、我々騎士団みんな、味方です」


「そうねーんっ。応援してるわーんっ」


 変態さんが頬に手を当て、また腰をくねらせたのです!


「わかりましたなのです! ならやっぱり! 王家を! 王政を変えなきゃなのです!」


「でけぇこと言っている……」


 ウルスさんが何故か驚いたのです。


「こりゃ、確かに。尻に敷かれたくなりますね」


「だろ?」


 なんか、クレイさんと二人で楽しそうに笑っているのですが、気にしちゃいられないのです!


「政治に関わる者! クレイさんの家族! 大臣だろうが王様だろうが関係ないのです! ビシバシやってやるのです!」


 「ふんぬっ!」と宙に浮きながらガッツポーズをしたのです!


「応援してますぜ、マルさん」


 ウルスさんが右手を差し出し、


「アタシ、これでも騎士団長だからねーんっ。時々、お偉方の集まりに参加したりするのーんっ。だから、知っていることはー、教えてあげるわー。何でも聞いてねーんっ」


 その手に変態さんが重ね、


「ありがとうなのです!」


 さらに、私の手を重ねて、


「「「えいえい、おー!」」」


「なのです!」


 二回、手を下げたら、「おー!」で手を上げたのです!


 むんっ! やる気、満々なのです!

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