第17話 嫌なのです! 離れないのですー!

「……ペルブラン団長、あなたが出てくるとややこしくなるから、大人しくしていてくださいと、言ったではありませんか」


 ウルスさんが、軽鎧けいがいの刈り上げ短髪さんに呆れたような視線を向けたのです。


「んー? 試合を、許、可、したのは、だぁれん?」


 刈り上げさんはくねくねとウルスさんに近づくと、人差し指を彼の口に当てたのです!


「——団長です……」


「そうよねぇ、アタシよねぇ。じゃあ、お前は黙っていろ」


 刈り上げさんが睨むと、


「はい……」


 ウルスさんは熊みたいに大きな体を縮こませたのです!


「そしてぇーん。初めましてじゃないけど、お初にお目にかかりますぅー、クレイ王子ん。アタシ、騎士団団長を務めていますぅ、ペルブラン・ガラホールと申しますぅ」


「ああ、知ってる」


「まぁ! 光栄ですわぁ! それにしても」


 刈り上げさんが、クレイさんに近づき、体をつーと上から下へ、


「いつも思っていましたけどぉ、いー体してますわねぇーんっ」


 撫でたのです!


 緊急事態なのです!


 クレイさんが! クレイさんの体が! 狙われているのです! こうしちゃいられないのです!

 私は客席から跳び、両手を広げ着地すると、旦那様の元へ走ったのです!


「クレイさん!」


「ん? マルか」


「とぉ! なのです!」


 クレイさんの足首に飛びつき、またまた登山なのです!


「おい、マル、くすぐってぇって」


「我慢するのです! よいしょよいしょ」


 脛、腿、腰、胸、と登り、


「んしょっとぉ!」


 クレイさんの顔に張り付いたのです!


おひおいマウマル


「刈り上げさん!」


「んー? アタシのことかしらぁーん?」


「クレイさんは! 私の旦那様なのでダメなのです!」


マウマルはあとくひをふあふな鼻と口を塞ぐなくうひい苦しい……」


「嫌なのです! 離れないのですー!」


 がっしり、クレイさんの顔にしがみついたのです!


ひっほくひすうっへーの窒息死するってーの!」


 クレイさんに後ろ襟を掴まれ離されたのです!


「だってー! クレイさんが狙われているのですー!」


 宙で手足をジタバタさせたのです!


「あ? 俺が? ないない、それは絶対ない」


「みゅ? 何故なのです?」


「こいつ、恋愛対象は女だから」


「みゅ?」


「そうよぉーんっ。恋愛対象は、オ・ン・ナ・ノ・コッ。しかもぉ、この間ぁ、可愛子ちゃんと結婚したばかりのぉー、新婚さんよーんっ」


 刈り上げさんは幸せそうに笑うと、左手を見せてくれたのです。薬指にシンプルな銀の指輪があったのです。


「でも、さっき、クレイさんの体を触っていたのです!」


「それはぁー。男の肉体美が好きなのぉーん!」


 刈り上げさんは、また気持ち悪く腰をくねらせたのです。


「そこの怒られてしょげている、デカい熊みたいな、明らかにわかる筋肉も好きだけどぉー」


「デカい熊って、オレですか……」


「脱ぐとすごい、程よく締っているとこは締りぃー、出ているとこは出てるぅー。そんな肉体美が好きなのーんっ。だからー絶対ー、クレイ王子はその体をお持ちだと思うのよねーん!」


 「はぁーん」と、悩ましげにうっとりとため息を吐いた刈り上げさん。


「要するに、変態さんなのですね」


「違うわよっ」


「要するに、変態団長なんだ」


「だから! 違うっつってんだろ!」


「要するに、変態だな」


「クレイ王子までぇーん! 酷ーい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る