第16話 くねくね星人、現る! なのです!
「マル、一人で客席に行けるか?」
「行けるのです!」
クレイさんが地面に下ろしてくれたので、入口近くの階段から客席に上がったのです。
その間にクレイさんは、訓練場の中央へ。
ウルスさんが、大剣を掛け、待っていたのです。
「本当に来たのですか……」
「ビビって逃げると思ったか?」
「いえ、そうではなく……。見せ物にされてしまうだろうと……」
「ああ、盛り上がってんな。いい事じゃねぇか」
よく聞こえないけれど、ウルスさんは申し訳なさそうに、クレイさんは楽しそうに話しているのです。そして、観客の声がうるさいのですー!
「クレイさーん! やってやるのですー!」
客席の最前列まで来ると、ぴょんぴょん飛び跳ね叫んだのです。
声が届いたのか、クレイさんはウルスさんを見据えたまま、私に向かい手を上げたのです。
「……失礼を承知で申し上げます」
「おう、何でも言え」
「クレイ王子は尻に敷かれるタイプだったのですね……」
「……ははっ、はははっ!」
「みゅ?」
クレイさんがお腹を抱えて笑い出したのです。
「あー……、まぁ俺も驚いてるぜ。でも、あいつを見てみろよ」
二人がこっちを向いたのです。
「あーんなに小せぇのに、器は俺たち
「そういうものですか……」
「まぁ、あのギャップが可愛いんだけどな」
「それ、奥さん本人に言ってやったらどうです?」
「んな恥ずかしいことを言えるか! でも、そうだな。お前に負けたら言ってやる。だから、俺は絶対に言わねぇってことだ」
クレイさんがニヤリと笑ったのです。
「……王子とはいえ、全力でいきます」
「ああ」
「左目がほとんど見えないからと、手加減はしません」
「当たり前だ、手加減したらぶっ飛ばす」
ピリピリとした、熱く痺れる空気が客席まで伝わってきたのです。
「互いに構え!」
騎士団の審判さんらしき人が号令をかけると、二人は剣を抜き、祈るように顔の前で立て、そして傾け、交えたのです。
「始め!」
開始の合図でウルスさんは大剣を構え、クレイさんは剣を下ろしたのです。
「……構えないのですか?」
「ああ」
「……試合といえど、互いに模擬剣ではない。怪我をしますよ?」
「どうぞ?」
クレイさんは挑発をするように、両手を上に向ける“わからない”みたいなポーズをしたのです。
「——では! 遠慮なく!」
少しムスッとしたウルスさんが、自分の身長ぐらいある大剣を両手で振り下ろしたのです! それをクレイさんは右手で構えた剣で受け止めたのです!
「よく、受け止めましたね。失礼ですが、安物の剣とお見受けしますが」
「ああ、どこにでも売っているやつだ」
「……そのような剣で、片腕だけで私の大剣を受け止めるとは……」
「賊に左目をやられてから、いつ、どこで、また体の一部を失うかわからない。その覚悟で生きて、鍛えているからな」
「——その志、敬服します。……ですが、体格も、剣も、剣技も、オレが上だと自負していますので!」
ウルスさんがそのまま力任せに競り合いながらクレイさんの剣を弾き飛ばしたのです! あわわー! 勝負ありなのですー! と、思ったら、クレイさんは諦めていなく! 跳んで左手で剣を掴んだのです!
「さすがですね! でも! そちらの手では威力半減するのでは!」
「いいや! その、逆だぜ!」
クレイさんは着地すると、その踏み込んだ勢いで、立ち上がるのと同時に左下から剣を振り上げたのです! キーン! と、ウルスさんの大剣が、
「オレの大剣が……、割れた……?」
真っ二つに割れたのです!
飛ばされた剣の刃は、ウルスさんの後ろに刺さったのです!
「え……? さっきより力が強くなってませんか? 王子」
「まぁな。俺は左利きだからな」
「え……? ですが、普段は右手を使ってらっしゃいますよね?」
「特訓した、両手を使えるように」
「え……?」
ウルスさんはまだ状況を把握できていないようなのです。
「だから、普段は右利きの振りをしている。その方が、こういう時、ダメージデカいだろ?」
クレイさんは剣を鞘に収めながら、ニヤリと笑ったのです。
「しょ、勝負あり! 勝者! クレイ・メネストル!」
わー! という歓声と共に、観客が立ち上がり拍手をしたのです! 私も負けじと飛び跳ねながら拍手をしたのです!
そんな時、宿舎の中から、
「男同士の熱い筋肉のぶつかり合い! んっんっんっんっんー! これだから団長はやめられないわー!」
男の人なのに、女性みたいに腰をくねくねさせて恍惚の表情で両頬に手を当て歩いてくる、紫髪の人が現れたのです!
くねくね星人、現る! なのです!
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