第10話 大好きなのです

 王様たちが城を出て行ったのです。


 何気なく周りを見渡すと、視線を感じたのです。

 視線の先を目で追うと、体格のいい軽鎧けいがいの男の人がクレイさんを見ていたのです。

 あの顔は、今までの人とは違うのです。私にはわかるのです。だってお父様と同じなのです、私を送り出してくれた時の、心配していた顔と同じなのです。


 やっぱり、そうなのです。


 こんなに優しい人が、全ての人に嫌われているわけないのです。


 絶対に! お城の中に! 味方はいるのです! 

 見つけてお話して、わかってもらうのです! 旦那様の魅力を!


「やってやるのです!」


「何をだ」


 いつの間にか、螺旋階段の途中にいたのです。


「内緒なのです!」


「ま、何でもいいけどよ。落ちねぇようにしっかり掴まっとけよ?」


「はいなのです!」


 クレイさんの首にがっしりと掴まったのです。


「いや、そこまでしなくていいけどよ。首が絞まるかと思ったぜ」


「私はそこまで馬鹿力じゃないのですー!」


「ははっ」







 クレイさんの部屋に戻ってきたのです。


 そういえば、窓際に黒い鞘に入った剣が立てかけられているのです。


「クレイさん、あれは王家の秘剣とかなのです?」


「んなわけねーだろ。安物だ安物」


 クレイさんは剣に近づくと、私を両手で掴み柄頭つかがしらに座らせようとしたのです。


「落ちる! 落ちるのです!」


 落ちないように両手足を広げ、バランスを取ったのです。


「落ちんなよ?」


 クレイさんは左手で剣を持つと、


「わわっ!」


 私が乗っているのに、右手に放り投げ、


「わー!」


 今度は左手に放り投げたのです。それを、大道芸師みたいに何度も繰り返したのです。


「クレイさん! 私は大道芸のお供の小道具じゃないのです! 妻で小人族ホビトンなのですー!」


「悪い悪い、ぬいぐるみアニマーレかと思った」


「——だーかーらー! 私はー!」


「はいはい、小人族ホビトンな、小人族ホビトン


 クレイさんは剣を窓に立てかけると、また私を両手で持ち上げたのです。


「ああ、ほら。“悪魔の舌オルコラング”、まだまだ新鮮で美味そうだぜ? それ食って機嫌直せよ」


「もちろん! 食べるのです!」


「食欲だけはどんな時でもあんのな」


 クレイさんは、両手の親指で私をむにむにしつつ、くしゃっと笑ったのです。


「——……」


 私は、この笑顔と、大切そうに持ってくれる大きくて傷だらけのあったかいこの両手が、お布団みたいに優しいこの両手が大好きなのです。


 この人の、旦那様の、笑顔と両手がいつまでも、あったかく、優しいままでいられるなら、そのためなら。


 私は、王政を立て直してやるのです!





⌘⌘⌘⌘


 あとがき。


 ようやく一章完結ですー!


 次回、新章、マルちゃん改革編です。

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