第9話 おかしいのですー!

「さて、そろそろ戻るか」


「そうなのです! デザートが待っているのです!」


「よく食うなー」


「知らないのです? 牛さんは胃袋が四つあるのですっ」


「いや、知ってるけどよ」


「私は小人族ホビトンとのハーフなので、胃袋は四つないのですが、たくさん入るのです!」


「太るぞ」


「太りにくいのです!」


「そりゃ羨ましいことだ」


 クレイさんは立ち上がったのです。私は落ちないようにクレイさんの首に手を置いたのです。


「でも、クレイさんも太っていないのです」


「鍛えているからな」


「体型維持のためなのです?」


「それもあるが、自分の身を守るためだ」



『騎士団っつーのはな、主に王族を守るもんだ。現王の血が通っていない俺は、正当な王位継承者じゃない。だから、護衛対象外なんだよ』



「……もー!」


「お? 今度は耳と尻尾がピンと元気になった。ははっ」


「——……」


 クレイさんのこの笑顔を見ると、何故かプンプンが減るのです。


「——もー……」






 お城へ戻ってきたのです。


 いつも思うのですが、お城って広く豪華なのです。長ーい長ーい廊下。グレーの床に真ん中は青大理石で等間隔に国の紋章が銀で掘られているのです。


 青大理石の道はそれぞれ左右にも伸びていて、それぞれの扉へと繋がっているのです。


 奥深ーい所に階段があり、恐らくあの上が王座なのです。


「みゅ?」


 奥から誰か二人が歩いてくるのです。そうしたら、近くにいた騎士さんや大臣っぽいが人たちが、両側に避けかしずいたのです。


 あ、知っているのです! 見たことあるのです! 王様と王妃様なのです! クレイさんのご両親なのです! 挨拶するいい機会なのです!


 どんどん近づいてきたのです!


かあ……、——」


 王妃様を見てクレイさんが声をかけようとし、言い淀んだのです。そして、何故か他の人たちと同じように脇に避け、道を空けたのです。


 おかしいのです。


 おかしいのです!


 おかしいのですー!


 家族は並んで歩くものなのです! 何でクレイさんだけ避けないといけないのです!


 そんなクレイさんを見て他の王子は嘲ったように笑うし! 王妃様は一瞬だけこちらを見て悲しそうに目を伏せたのです!


 何故なのです! 王妃様! 何故クレイさんに手を差し出してくれないのです!

 唯一! 血が繋がっている家族なのに! 何故なのです!


 色々な感情が込み上げてきて、心配になりクレイさんを見上げていたのです。


 クレイさんは私の視線に気づくと、一瞬寂しそうな目をしてふっと笑い、でも、いつもの声色で、


「俺の毎日なんてこんなもんだ」


 と、言ったのです。


 ……こんなのが毎日?


 ……こんなのが?


 ……こんな、クレイさんだけ除け者みたいなのが?


……毎日?


 …………。


 ずうぇーったい! おかしいのですー!

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