第8話 半分こなのです!
「買ってきたぜ」
戻ってきたクレイさんの右手には、中から湯気が出ている耐油紙の薄茶色イートバッグがあったのです。
「熱々なのです?」
「熱々だ。けど、美味いぜ?」
ニッと笑い、しゃがんで見せたくれたのは、イートバッグから顔を出している揚げ物だったのです。
「——美味しそうなのです! 早く食べるのです!」
「まぁ待て、いいとこ連れてってやるから」
「いいとこ? なのです?」
「そ、いいとこ」
「わかったのです!」
「じゃ、ほら」
クレイさんは左手を差し出してきたので、
「んしょ」
その上にどしんっと座ったのです。
「さぁ! いいとこへさっさと連れて行くのです!」
「今日も絶好調に偉そうだな」
クレイさんが連れてきてくれたのは、
「うーわぁ!」
お城の裏手にある丘だったのです。そこから、一面広がる草原。風で気持ちよさそうに草が揺れているのです!
「気持ちいいだろ? ここまで何もねぇと」
「気持ちいいのです! 気分爽快なのです!」
「ここに来るとな、何も考えねぇでいられるからいいんだよ」
「やっぱり、お家のしがらみとか考えちゃうです?」
クレイさんは眉をぴくっと動かすと、左手を上げ目線を合わせたのです。
「お前、単純そうに見えて鋭いとこ突いてくんな」
「単純じゃないのです! 色々考えているのです!」
「あーはいはい」
「またそれなのですー!」
「ま、俺もな。一応は考えるわけ。王政をな」
「王政! 絶対に何とかしないといけないのです!」
クレイさんの手の上で立ち上がったら、ぐうぅーとお腹が鳴ったのです。
「——まずは腹ごしらえなのです!」
「本当に欲には忠実だな」
クレイさんは丘に座り、
「マルは俺の肩に座れ」
左肩に私を座らせたのです。
「そんで、まずは、ほら」
イートバッグに入っていた一つを、千切って渡してくれたのです。
「あったかいのです。みゅ? 独特な香りなのです」
「どっかの国の商人が持ってきた、カリーっつーやつを使ったブレッドだ」
「辛っ! 熱っ! はふはふっ。ん! 外はカリッカリ! 中はとろーりで辛美味なのです! 野菜とお肉ゴロゴロで食べ応えあるのです!」
「だろ?」
「もう一個も寄越すのです!」
「はいはい」
クレイさんはカリーブレッドとやらを、腿の上に置くと、もう一つのイートバッグに入っていたものを千切ってくれたのです。
「ほら」
また揚げ物だったのです。
「……クレイさん」
「何だよ」
「栄養が偏っているのです!」
「いいんだよ。生き物はいつ死ぬかわかんねぇ、これを食った数秒後にはもう死んでるかもしんねぇ。だから、俺は食いたい物を食いたい時に食う」
「むむー、一理あるのですー」
「いいから食ってみろって」
渡されたものを、両手で持ち、かぶりついたのです。
「みゅ?」
サクサク香ばしい衣の中にホクホクの
「お野菜の甘味と
「上手いこと言うな。ま、このシンプルな美味さがいいんだよな」
クレイさんはパクパクと食べていき、指に付いた衣もしっかり食べたのです。
「お行儀悪いのです!」
「誰も見てねぇからいいんだよ」
クレイさんはニッと笑うと、またカリーブレッドを食べ始めたのです。
誰も見てない、気にせず食べれるのは確かにいいのです。こうして、分け合って食べるのも楽しいのです。分け合う……、そうなのです!
「クレイさん! 半分こなのです!」
「あ? もっと寄越せってか?」
「違うのです! いやっ、欲しいけど違うのです!」
「どっちだよ」
「だから違うのですー! これからは! 何でも半分こなのです!」
「何でも?」
「何でもなのです! 美味しいもの! 楽しいこと! プンプンなこと! 悲しさ寂しさ辛さ、ぜーんぶ! なのです!」
家族に受け入れられない悲しさ、“
「——……」
クレイさんは、一瞬、目を見開き、ふっと寂しげに眉を下げると、いつもの顔に戻り、
「だからっ! むにむにやめるのです!」
私のほっぺたを指でむにむにしてきたのです!
「その小せぇ体のどこに、そんなパワーがあんのかなって思ってよ」
「小さくても元気で賢い! それが、
立ち上がり、腰に手を当てえっへんと胸を張ったのです!
「ははっ、口の端に衣を付けたまま言ったら、説得力ねぇけどな!」
「みゅ!?」
「——でも、ま。ありがとな、マル」
「はいなのです!」
「小せぇけど、世界一でっかい嫁さんもらったな、俺は」
⌘⌘⌘⌘
あとがき。
カレーパン、コロッケ。揚げ物と揚げ物、胃もたれするけど、好きなんですよねー。
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