第3話 なーんーなーんーだー! なのです!

「騙してねぇだろ」


「いいえ! 騙したのです! 第二王子本人のくせに! 第二王子の悪口を言わせ! 小人族ホビトンの評判を落とし、悪い妻にする! それが! 人間族ヒュームのやり方なのですね!」


 両手で体を掴まれているので、足だけバダバタ動かしたのです!


「いや、別に悪口だと思ってねぇし」


「みゅ?」


「“外れもの”“嫌われ王子”“顔が怖い”。全部そうだなと思ってっから」


「——そ、そうやって同情を誘おうとしても無駄なのです!」


「同情してもらおうとも思ってねぇし。だってよ、俺が何て呼ばれているか知ってるか?」


「知らないのです」


汚泥狼ファンゴウルフ。汚れた泥狼だ」


「……何でそう呼ばれているのですか」


「肌の色が黒いからだろ」


「…………」


 なん……。


「だから、お前はとんでもねぇとこに嫁いで——」


「何なんだー! なのですー!」


 高速足ジタバタなのです!


「うおっ、どうしたいきなり」


「肌が黒い! それだけで嫌うなんて酷いのです! 小人族ホビトンにも、肌が黒い人はたくさんいるのです! でもみんな仲良しなのです!」


「それだけじゃねぇからだ」


「じゃあ何だと言うのです!」


「俺は王妃の連れ子だ。現王の血は通っていない。だから、汚れているんだとよ」


「……なーんーなーんーだー! なのですー! 人間族ヒュームは力も知能も高いのに! 何でそう差別するのですかー! もー!」


「もーもー言ってると、牛になんぞ」


「心配ご無用なのです! 私はもう牛なのです!」


「は?」


「少し待つのです! んーしょ」


 隠すことに使っていた魔力を解き放ったのです! そうすると、体は一気に楽になり。


「この通り! 私は牛の獣人なのです!」


 ふさふさ耳に一対の丸い角、先端に毛がある長い尻尾を出せたのです。


「——……」


「みゃ! 耳を触らないでほしいのです!」


「…………」


「尻尾も揺らさないでほしいのです!」


「…………」


「ほっぺむにむにもやめるのです!」


「ふはっ、お前ヤベーな!」


「——……」

 

 きゅん。


 みゅ? きゅん?


 ——って、違うのですー!




⌘⌘⌘⌘


 あとがき。


 マルのモデルは、ジャージーの仔牛なのです。お目々くりくり、好奇心旺盛。

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