第2話 騙されたのです!

「は?」


「もー! 三回言うのはもっと失礼なのです!」


「いや、だってよ。マジでぬいぐるみアニマーレじゃねぇの?」


「何回言えばわかるのですか! 私は! 小人族ホビトンなのです!」


小人族ホビトンって、こんくらいの奴じゃねぇの?」


 人間族ヒュームは、私を左手に持ち直すと、右手を水平にし、自分のお尻の辺りに添えたのです。


「それはっ、土妖精ドアーフ! 私は小人族ホビトン! 全く違うのです! そもそもっ、土妖精ドアーフというのはっ——」


「ああ、そういうのいらねぇから。俺、勉学は苦手だし」


「確かに! そういう顔をしているのです!」


「だろ?」


 人間族ヒュームはニッと笑ったのです。むむっ、笑うと可愛いのですっ。けどっ、こんなんもんじゃ許せないのです! ……そうだ!


「ちょうどよかった! 第二王子のとこまで連れていくのです!」


「何で偉そうなんだよ」


「偉いからなのです! 嫌われ第二王子に嫁ぐんだから偉いのです!」


「嫌われ、なぁ。ま、居場所は知ってるから連れてってやるよ」


「本当なのです? なら早くぷらぷらやめるのですっ」


「おぉ、わりわりぃ。じゃ、俺の頭にでも乗っとけ」


 ぽいっと頭の上に載せられたのです。


「わっ、落ちたらどうす——ふわふわなのです」


「ははっ、そいつはどうも。しっかり掴まっっとけよ?」


「言われなくとも! なのですっ」


 見た目よりふわふわな人間族ヒュームの髪の毛をがっしり掴んだのです。


「あ、そうだお前ら」


 人間族ヒュームは、逸れ狼ストレーウルフたちを見たのです。


「決まった時間に食べ物を持ってくるから、人は襲わないって約束だろ」


「グルルー……」


「グルルーじゃねぇ、返事は」


「ワンッ」


「よし。じゃ、行くか」


 人間族ヒューム逸れ狼ストレーウルフを大人しくさせると、ゆっくり歩き出したのです。でも、さすがというか、当然というか、身体の大きさが違うから、私が何十歩も早足で歩く距離を、数歩で行けてしまうのです。

 ……ずるいのです!


「そうだ! 第二王子、知ってるのです?」


「ああ」


「何故、“外れもの”と嫌われているのです?」


「見た目が怖いからじゃね?」


「あなたみたいに、なのです?」


「そうそう」


 人間族ヒュームはケラケラと可笑しそうに笑ったのです。


「もー! あなたみたいに見た目が怖い人に嫁がせるなんて! 人間族ヒュームの王様はどうかしているのです!」


「だな」


 第二王子について話している間に、人間族ヒュームの国、メネストル共和王国に着いたのです。

 何度か招待されて来たことあるのですが、やっぱりきれいな国なのです。


 薄茶の煉瓦道、屋根が焦茶な可愛くて素敵なお家。


 真ん中にある国なので、交通の要になっているのです。人間族ヒュームは、他にも国はあるのですが、私はここしか知らないのです。


 まず、目に入るのが市場、『太陽市場ソーレ・メルカート』なのです。

 茶色や黄色の大きな日傘を差したお店がいっぱいなのです。

 許可をもらって三種族みんなお店を開いているのです。だから、小人族ホビトンの食料も買えるのですが、それはダメなのです!


 国で自給自足をする。それが私たち小人族ホビトンのポリシーなのです!

 そして、私は! そのための人質なのです! でも。


「相変わらず賑わっているのですー」


「この大陸じゃなく、別んとこから来た種族もいるからな」


「はっ! もしかしたら第二王子もそうなのです!? 別の大陸からやってきたから嫌われているのです!?」


「かもな」


 そうこうしている内に、城へ着いたのです。

白い外壁に水色の屋根。いつ見てもでっかいのです。


 ん? この人間族ヒューム、門番に許可も取らずに入っていくのです。


「謁見の許可とかいらないのです?」


「いいんだよ」


「みゅ?」


 そして、入ってすぐ右側にあった螺旋階段をぐるぐる上っていくのです。


 着いた部屋のドアには、黒茶の狼の紋章があったのです。


 ……ん? この紋章って、確か……。


 そして、私を運んだ人間族ヒュームは、ドアを開け中に入ったのです。そこは木製のベッドと、黒い机と椅子だけのシンプルな部屋だったのです。


 人間族は椅子にどかっと座ると、私を両手で掴み目線を合わせ、人の悪い笑みを浮かべ、こう言ったのです。


「ようこそ、俺の部屋へ。俺が第二王子、クレイ・メネストルだ」


「——騙されたのです!」

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