7日目:Ⅲ 唯我と秀、人間を捨てた不和と決着をつける。
「唯我、唯我、ねえ、目覚ましてよ」
耳元で声がする。頼果か…。全身が痛い。動けない。目を開けているはずなのに、目の前が真っ暗だ。完敗だ。遂に、俺の不敗神話は滅ぼされた。起き上がりたくても起き上がれない。ここはどこだ?
「ら、頼果…。」
「唯我、生きてるの⁉」
震える声が聞き取れた。頼果、か…?
「脈ぐらい測っとけ…。」
声を振り絞って、俺は言った。
「良かった、死んでなくて。生きてて、良かった…。」
頼果はしゃくりあげながら何度も繰り返した。お前、そんなに俺を…。
「龍は、どうした…。」
「戦ってるよ、皆が。黄金の国の、兵士たちも。」
だんだん聴力が回復してきた。遠くで銃声がする。黄金の国の軍隊か。だが、またエネルギーを溜めてあの必殺技を出されれば終わりだ。
「頼果、起こしてくれないか。」
薄っすらと視力も回復してきた。ぼんやりと、涙に濡れた頼果の顔が浮かび上がって来た。
「大丈夫なの…?」
恐る恐る、頼果は尋ねた。
「あぁ、ここで倒れたままなら、俺は完敗だ。必ず、立ち上がる。」
「分かった、唯我なら勝ってくれるんだよね、信じてるから。」
地面と背中の下に、頼果の細い腕がくぐりこみ、俺の上半身をゆっくりと起こした。全身に激痛が走る。首、肩、背中、腰が全て痛い。
「すっごい痛そうな顔してるけど、ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫だ、肩借りるぞ。」
左手で頼果の肩を抑え、俺は痛みを堪えてよろめきながら立ち上がった。
「はい、刀。槍もいる?」
頼果は、俺に武器を手渡した。
「頼む。」
頼果の肩を借りながら、俺は皆がいる戦場までフラフラと歩いて行った。
○ ○ ○
「銃弾は鱗で全て弾き返されます。どうすればいいんだ…。」
圭は諦めたように銃を下ろした。それを伊織が励ます。
「大丈夫、弱点があるはず。唯我がいなくても、私たちが頑張らないと。」
「空からの攻撃なんて、卑怯すぎっすよ。」
湊が不平を言う。
「卑怯結構。お前らみたいに俺に歯向かう奴らは要らないんだ。俺が全滅させてやる。」
そう言って銀の龍が雷を放った。雷は、黄金の国の兵士達に直撃した。
うわぁぁぁぁぁぁぁ…。
悲鳴があがり、黄金の国の軍隊は全滅した。
「マズいぞ、どうすればいいんだ…。」
秀は苦しそうに呟いたのが聞こえた。さあ、戦線復帰といくか。俺は頼果の肩を借りたまま、全員に聞こえるように大きな声を出した。
「よう、待たせたな。」
「唯我、大丈夫なの…?」
驚いたように振り向いた伊織が心配そうに言った。
「大丈夫だ。俺はこんな所で死なない。」
「チッ、まだ生きてやがったか。折角命拾いしたのに、まだ俺に楯突くとは愚かな奴だ。死にたいのか?今度こそ、望み通り殺してやる!」
銀の龍は怒鳴った。
「こんな所で死んでたまるか。俺の墓場は俺が決める。」
俺は刀を構える。
「ヒーローは、ピンチになってからが本番なんだよ。ね、唯我!頑張って!」
そう言って頼果は組んでいた肩を解くと、俺を前に押し出した。怪我人への扱いが雑だ。偉そうに解説しないで貰いたい。
「待ってたぜ、唯我。お前なら立ち上がれると信じてた。」
秀が言った。
「ああ、ありがとよ。ほら、これはお前が使え。」
俺は秀に槍を渡した。
「俺でいいのか?」
「不和でも使えたんだから、お前が使えない筈が無い。」
秀は笑みを浮かべた。
「あぁ、任せろ。勝つぞ。」
そう言うと、秀は俺の隣に立ち並んだ。
「二人まとめて墓場に送ってやる。覚悟しろ!」
龍は、俺達に向かって雷を吐いた。俺は刀から炎を出し、龍の吐いた雷とぶつける。
「今だ、秀、いけ!」
秀は槍を思いっきり投げた。水の勢いも相まって、槍は空高くにいた龍に突き刺さった。龍は唸り、よろよろと低空飛行をした。槍の刺さった所から、龍の身体が徐々に煙となって行く。刺さった槍は、地面に落ちて来た。
「よし、この距離なら届く。」
俺は刀を構え、地面すれすれを飛ぶ龍の前足に飛び掛かった。
「足、借りるぜ!」
秀が俺の足に飛びつくと、体を捻らせ、槍で銀の龍の腹を刺した。俺も燃える刀で龍を斬りつける。龍はダメージを受け、ドスンと地面に落下した。
「こっからが本番だ、行くぞ唯我!」
「ああ、覚悟しろよ、不和龍一郎。人間を捨てたお前に手加減はしない。」
俺と秀はそれぞれ刀と槍を構えると、龍に向かって走って行く。大きく振った刀は、太い龍の首を斬った。反対側から秀が、槍で同じようにして龍の首を突き刺す。
「何、だと…、この俺が、負けるのか、認めない、認めないぞォ…。」
吠えるような悲鳴をあげ、龍は徐々に煙となって消滅した。俺と秀は、向かい合って立っていた。
○ ○ ○
「頂点に立つためには、狭間の神殿に行く。パンダのお面はそう言っていた。」
破壊された宮殿の瓦礫に座り、秀が呟いた。そういえば、そんなこと話していたな。前に黄金の国へ行った時に言っていた。
「でも、狭間の神殿って、どこにあるの?聞いたことある?」
頼果は近くに落ちている小さな瓦礫を積み上げながら言った。
「僕は無いですね。」
「私も、聞いたことない。」
「僕も、見たことも聞いたことも食ったこともないっすよ。」
「神殿は食べれないよ?」
頼果が不思議そうに湊の顔を覗き込んだ。
「分かってるって、ふざけただけっすよ。マジレスしないでよ。頼果さんに言われたら、僕がホントのアホみたいになるじゃないっすか…。」
不満げに湊は呟き、頼果が積み上げていた瓦礫を崩す。頼果は渋い顔をした。
「ねえ、ちょっと、どーゆーこと?私がアホって言ってるの?」
崩された瓦礫を積み上げながら頼果は言った。湊はそれをまた崩す。
「神殿への行き方は、聞いているのか?」
俺は秀に問う。
「いや、聞いてないな。狭間の神殿、という単語だけを知っている状態だ。」
「手がかり無しか、もうお手上げだよ…。」
頼果が言った。行き詰まったな、行き止まりだ。どうすればいい…?
その時だ。雲が裂け、天から一筋の光が差し込んだ。そうか、道が無いなら、自分で開けばいい。
「よし、分かった。行くぞ。」
俺は立ち上がって言った。
「え、ちょっと待って、どういうこと?」
全員、こっちを不思議そうに見つめている。
「秀、ここから一番近い未開の地へ案内してくれるか?」
「未開の地?何で…?」
伊織が呟いた。皆、理解が追い付かずに困惑した様子だ。だが、秀は頷いて言った。
「そうか、そういうことだな。道はお前が開くってことだろ?分かった、船に乗るぞ。」
俺と秀は破壊された建物の瓦礫が落ちている道を、港へ向かって歩き出した。未開の地から、狭間の神殿へ行く道を創るために。
○ ○ ○
小さな島に上陸した時には、日も傾きかけていた。島の向こう側は、霧がかかっていて何も見えない。ここからこの島を大陸にすることだってできるし、岩を波が砕くような荒海にすることもできる。つまり、未開の地だ。俺達五人と秀、そして明ケ戸達也を始めとした黄金の国の大臣が四人、霧の前に立っていた。黄金の国にはまだ参加者がいたのか。知らなかった。
「狭間の神殿を想像しろ。」
そう言って俺は、霧の中へ進んでいった。狭間の神殿、一体どんな姿をしているのだろうか。外観は分からないので、狭間の神殿という名称を呟きながらゆっくりと歩く。徐々に霧が晴れ、怪しげな木製の古い扉が姿を現した。
「これが神殿?」
頼果が言った。扉には薄っすらと、消えかかった文字で『狭間の神殿、入り口』と書かれている。だが、扉の裏側には建物など一切ない。ただ、地面に扉が置かれているだけだ。
「取り敢えず、開けてみるぞ。」
秀は錆びたドアノブを回した。ギシギシと軋んだ音を立てながら、扉はゆっくりと開いた。と同時に、眩しい光が扉の中から放たれた。
「うっ、眩しい…。」
「何かあるはずだ、行くぞ。」
俺は扉に足を踏み入れた。急に重力が無くなったかのような感覚に見舞われ、目の前が真っ暗になった。直後、突然重力が戻り、俺達はその場で倒れた。
「ここは…。」
目を開くとそこには、大きな門があった。その奥には、見渡せないほどの超巨大な神殿のような建物がある。しかし、反対側には何もない。地平線が、無い。まるで天と地が一つになったかのように見える。どことも繋がっていない、ここが、狭間の神殿…。
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