7日目:Ⅱ 唯我、水の槍を手に入れる。
俺が出した炎は消された、不和龍一郎の水の槍によって。服が濡れて重い。次々と向かってくる攻撃をかわしながら、対処法を考える。この刀はまだ炎を出せる。だが、出したところですぐに炎を消される。なら、どうすればいい?
「ほらほら、刀の力にばっかり頼っているから燃えなくなった途端に弱くなるんだよ。結局は刀なしじゃ俺には勝てないんだよ。」
そう言って不和龍一郎は地面に槍を刺した。物凄い勢いで水が地面から吹き出し、俺は数メートル吹き飛ばされた。
「ほらほら、地面なんか舐めてないで掛かって来いよ。それとも降参するか?降参は早いうちにした方がいいんだろ?」
不和が自信満々の笑みを浮かべながらこっちに歩いて来る。俺は笑った顔をした。
「ハッハッハッハッハ…。」
「何が可笑しい?」
「刀の力に頼っている?この俺が?特大ブーメランだな。お前こそ槍の力に頼りまくりじゃないか。」
「そっちこそ、炎を出しているんだからおあいこだろ。」
「だったら特殊能力無しで戦うか?」
「ああ、やってやるよ。」
掛かったな、浅はかな奴だ。俺は立ち上がると刀を構えた。不和龍一郎が槍を突き出す。俺はそれを刀で受け流すと、一気に不和に近づいて距離を詰めた。刀は近距離戦が有利だ。それに対して槍は、ある程度距離が無いと攻撃しにくい。俺は素早く不和の首元に刀を当てた。
「ほらな、特殊能力に頼っていたのはお前の方なんだよ。」
その時、地面から水が吹き出した。俺はよろけて転倒した。
「バカめ、自分から負けに来やがってよ。」
不和は槍を持ち、倒れている俺の方に向けると、力一杯突き刺した。
「いいだろう、お前は特殊能力ありだ。俺は炎を使わない。」
突き下ろされた槍を刀で払いのけ、俺は素早く立ち上がった。こんな奴、俺の敵じゃないさ。
「ふざけやがって、舐めプにも程があるぞ!」
不和は連続で槍を突き出す。槍と共に水飛沫が跳ねる。地面は水だらけで滑りやすい。気を付けながら俺は槍を避け、壁の傍までやって来た。
「敗北の用意はいいか?」
俺は壁を蹴ると飛び上がり、勢いよく不和に飛び掛かった。不和が持つ槍の柄の真ん中を掴むと、体を丸めて槍に足を当てる。まるで鉄棒に足をかけるように。そして、それに体重を掛けて踏み落とす。俺は、濡れた地面に落ちた水の槍の上に着地する。槍から手を放した不和の隙を見逃さずに、俺は刀を不和の首元に当てた。
「分かったか、俺の勝ちだ。」
悔しそうに不和は俺を睨んだ。
「唯我!」
向こうからアップルナインの兵を倒した湊、伊織、圭が走って来た。あっちも片付いたか。これで俺達の完全勝利だな。
「さあ、宮殿を明け渡して貰おうか。」
「フッ、馬鹿め。摩乃秀がどうなってもいいのか?」
そういえばそうだった。恐らく秀は捕らえられているのだろう…。
「人の心配より、自分の心配をした方がいいぜ。」
大広間に、大きな声が響いた。そこには相変わらず金色の派手な服を身につけた、秀の姿があった。
「摩乃秀、どうやって脱出した…?」
「私だよ~!」
頼果が自慢げに手を振っている。傍には鍵を持った明ケ戸達也もいた。いつの間に…。やるようになったな、頼果。
「助けに行こうって言ったのは私なんですけどね…。」
ボソッと明ケ戸達也が呟いた。頼果に期待して損した。
「ほらな、俺達の勝ちだ。降参しろ!」
秀は威勢よく言った。
「お前は何もしてないだろ。」
「それもそうだったな、ハッハッハ。助けてくれてありがとよ。」
秀は俺に向かって拳を突き出した。俺は、秀の拳に拳を軽く当てた。
「俺は、諦めない、どんな手を使ってでもお前に勝つ!」
不和は、俺に怒鳴った。その時だ。コツコツと、何者かの足音が近づいて来るのが聞こえた。
「誰だ…?」
そこには、虎のお面を被った人影がいた。
「お前…。」
こいつ、俺達の邪魔をしようとしているのか?狐と違って信頼できない。
「不和龍一郎、その程度か?」
「黙れっ!まだ戦える…。」
首元に刀身を当てられたまま、不和は唸った。そして、ポケットから小瓶を取り出し、素早く栓を抜いた。中から煙のような物が現れ、俺は少し後ずさりをした。
「幽霊か。」
足元にあった水の槍を持つと、俺は幽霊を突き刺した。幽霊は煙となって消えた。簡単な相手だ。
「速い…。」
頼果達は驚いている。だが、これは恐らく時間稼ぎだ。不和と虎のお面が何か話している
「これを飲めば強大な力を得られる。だが、その代償として人間を辞めることになる。」
そう言って虎は、怪しげな瓶を差し出した。何をする気だ…?人間を、辞める力…?
「ああ、いいぜ。やってやるよ。もう人間界に未練なんてねえよ。俺はもっと強くなる、そして、日野唯我を倒す!」
「やめろ、本末転倒だ。人間を辞めれば、頂点に立つ意味が無くなるぞ。元の世界に帰れなくなる。」
俺は言った。しかし、不和は馬鹿にしたように笑った。
「元の世界に帰る?お前、狐の言葉を信じてるのか?俺はそんなの興味はねぇよ。どうせ戻ったって少年院だ。それよりもこの世界で頂点に立って、最強の支配者になるんだ。」
そう言って不和は、瓶の栓を抜いた。そして、それを一口で飲み干した。
「あぁ、苦くてうめぇなあ。」
不和の身体がみるみる変化していく。全身に銀の鱗が生え、体は巨大化し、銀色の龍となった。
「そうだ、それでいい。」
虎のお面は楽しそうに太い声で笑った。
「不和龍一郎、人間を捨てたお前には手加減しない。首を斬るつもりでいくぞ。」
俺は刀と槍を構えた。
「その前に俺がお前の命を貰う。」
不和は、宙に浮くと、黄金の宮殿の壁を突き破って外に出た。まずいな、空中からの攻撃は圧倒的不利だ。だが、負けはしない。俺なら勝てる。俺は不和龍一郎に向かって刀を構えた。
「オラよ!」
眩しい閃光が放たれ、宮殿に直撃した。雷か…。当たれば命が危ない。
「怖いよ、唯我、助けて…。」
「頼果、お前は安全なところに避難しろ。俺が必ず奴を倒す。」
「唯我!」
俺は宮殿の外へ出た。秀、湊、伊織、圭も追って来る。
「さあ、終わりだ!」
銀色の龍は、天に向かって八の字を描いて身構えた。黒い雲が天に蓋をして、太陽の光が遮られた。来るぞ、必殺技が…。
「お前ら、離れろ!」
俺は追いかけて来た四人に怒鳴った。四人は慌てて立ち止まる。その瞬間だ。
ピカッ
一瞬、辺りが真っ白になった。撃たれた、雷に…。爆音と共に、全身を鋭い痛みが突き刺す。目の前が真っ暗になり、俺は意識を失った。
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