8章 狭間にて、日は昇る
7日目:Ⅰ 唯我、壊滅寸前の黄金の国に向かう。
唯我たちと一緒に朝食を食べている時だった。突然、インターホンが何度も鳴り響いた。
「なんだなんだ、朝からうるさいな。」
唯我が不機嫌そうに扉を開くと、そこにはフラフラになった明ケ戸達也が立っていた。あの人、黄金の国の大臣…、なんでこんな朝早くから?
「助けてください、今朝早朝、アップルナインが黄金の国を侵攻してきました。」
「マジで、アップルナイン?みんな、今すぐ行くよ!」
伊織が叫び、身支度をする為に自室に戻ろうとする。すると、唯我は立ち上がって伊織を引き留めた。
「待った。俺達が参戦して、何か利益があるのか?」
唯我の言葉に、明ケ戸達也は口ごもった。唯我、またそんなこと言ってる…。利益とか、そういうことじゃ無いんだけどな…。唯我には、そういうの、あんまり分からないんだよね。虚しい寂しさを感じた。
「いや、秀さんもいるんですよ、何で助けに行かないんですか?」
圭が言った。そうだそうだ!そういうことが言いたいの、圭、私もそう思うよ!
「僕は行きます。アップルナインは共通の敵です。」
そう言って圭は準備のため、部屋に戻った。
「唯我は友達を助けようとはしないから。ほら、湊も行くでしょ?」
伊織が食事中の湊を急かした。
「ほら、早く行くよ。」
伊織は足早に、準備をするために自分の部屋に戻って行った。
「お、おう、任せてくださいよ!」
湊も慌てて箸を置くと、伊織を追いかけて行ってしまった。私は特に準備することも無いな。でも、何の力にもなれないなんて嫌だ。私の出来ることを探してやろう。それだったら…。
「明ケ戸さん、唯我は私が説得するから、先に行っといてください。」
私は明ケ戸さんに言った。唯我は相変わらず、悠々と食事をしている。私が、唯我に感情を教えるんだ。何としてでも唯我を黄金の国に連れて行く。私にできることは、これぐらいしかないんだから。
「分かりました。じゃあ、お願いします。」
そこに、身支度を整えて、忍服姿の湊と、甲冑を纏った伊織と、手ぶらの圭がやって来た。
「私たちは準備OK。出発して大丈夫だよ。」
伊織が言った。
「それでは、出発しますよ。」
明ケ戸達也に続き、三人は馬車に乗り込んだ。私も、馬車に乗りたかった。唯我と一緒に。
「ねぇ唯我、行こうよ。ほら、秀君助けるよ。親友なんでしょ。」
私は唯我の袖を掴むと、強く引っ張った。
「嫌だね。あいつらが潰しあってくれれば楽じゃないか。」
「はぁ?それでも主人公ですか?仲間の為に戦わないの?」
「俺は俺の為に戦う。それに秀のことだ。あいつなら負けないよ。」
やっぱり、そう言うよね。どうしよう、説得しなきゃ。唯我、早く行こうよ。
「ねぇ、親友なんでしょ?だったら助けてあげようと思わないの?何も感じないの?」
私は叫んだ。唯我の目が、一瞬こっちを向いた。しまった、何も感じないんだった…。私は唯我から目を逸らして俯いた。でも、次の瞬間、唯我の口から吐かれたのは、意外過ぎる言葉だった。
「それが、優しさってことなんだな…?大体、分かったよ。」
え、分かってくれたの?
仕方ない、行ってやるか。そう呟くと、刀を腰に下げた唯我は扉を開けた。眩しい光が、開かれた扉の向こうから差し込んで来た。やれやれ、歩いて行くのは時間かかるよ。どうせ唯我は走るんだろうし、私だけ置いてけぼりか…。
「お前ら…。」
唯我が呟いたのが聞こえた。そこにはまだ、馬車が停まっていた。え、なんで?出発したんじゃなかったの…?
「待ってましたよ、唯我さん。」
湊が微笑んだ。
「これが、信頼できる仲間だよ、唯我。」
私は唯我に言った。唯我は一瞬笑ったように見えた。
「あ、ありがとう…。」
唯我は不思議そうに礼を言った。なんでだろう、私も嬉しかった。
○ ○ ○
黄金の国に着いた。そこは見たくもない程悲惨な状況だった。私が美味しいお菓子を食べた、あの露店が並ぶ商店街はほとんど破壊され、その奥に連なる建物には漏れなくひびが入っていた。
「秀さーん、どこですかぁ?」
皆、大声で秀を呼んだ。けど、秀君や、他の人の返事すら聞こえない。
「嫌な予感がするな。」
唯我が言った。どういうこと?
「戦闘が行われていない。まさか、既に戦いは終わった…?」
じゃあ、秀君は負けたの…?
「取り敢えず、宮殿に向かいましょう!」
明ケ戸達也が急いで走り出した。私たちもそれに続く。
○ ○ ○
「あれは…、アップルナインの兵士?」
伊織が言った。おかしい、なぜか黄金の国の宮殿を守っているのはアップルナインの兵隊だった。
「まさか、もう占領された?」
明ケ戸達也は慌てたように言った。
「宮殿の中に入ればいいんだな?」
唯我が刀を抜いて走って行く。忍服姿の湊、甲冑を纏った伊織、そして手ぶらの圭もそれに続く。
「頼果さん、今は隠れておきましょう。」
明ケ戸達也が言った時には既に、兵隊は気絶していた。流石は唯我、強すぎ!
「え、速っ…。」
「ほら、何やってんの明ケ戸さん、行くよ。」
私は唯我たちに続いて走って行った。慌てて明ケ戸達也も追いかけてくる。
○ ○ ○
「よう、日野唯我。来ると思ってたぜ。」
にやりと笑ったのは不和龍一郎だ。広間でどっしりと構えている姿は、滅茶苦茶強そう。重そうな鎧を纏っているから、余計強そうに見える。
「いいぜ、ここでお前の意志をへし折って、二度と俺の前に立ちふさがれないようにしてやるよ。」
そう言うと唯我は刀を抜いた。周囲は炎で橙に照らされた。でも、「意志をへし折って」なんて、使うセリフが悪役そのものなんだよね…。
「はぁ、お前も残念な奴だよなぁ。燃える刀があるからって調子に乗っちゃって。俺には勝てないんだぜ?」
「残念なのはお前だ、不和。俺が負けることは無い。それを勘違いして何度も俺に挑めば痛い目を見るだけだぞ。諦めて降伏しろ。」
相変わらず悪役っぽいセリフを言って、唯我はあくびをした。カッコいいのかカッコ悪いのか、よく分からない。
「テメェ、喧嘩売ってんのか?ふざけんな!」
不和龍一郎は大きな斧と鎌を振り回した。
「弱い‼」
唯我はそれを両方かわし、後ろに下がって距離を取った。
「おやおや、及び腰じゃねぇか、どうしたんだ?」
太い腕で掴んだ斧と鎌をブンブンと振り回して不和は唯我を攻撃する。唯我はどんどん後ろに下がって行く。ヤバい、あとちょっとで壁だよ、どうするの…?
「どうした、今日は雑魚じゃねぇか。とどめ刺すぜ!」
不和龍一郎は鎌を振り上げた。ザクッ、鈍い音がした。え、唯我が、負けた…?
「残念、大事な大鎌が壁に刺さっちゃったな。」
唯我は左に避け、鎌は壁に突き刺さっていた。流石唯我!
「お前、もっと小さい武器を使った方がいいんじゃないか?壁に刺さることを考えてないなんて、頭使えよ。」
「俺を怒らせたな…、容赦はしない!」
バタンと音を立てて大広間の扉が開き、ぞろぞろとアップルナインの軍隊が入って来た。ヤバい、多すぎるよ。どうしよう、逃げないと…。
「唯我、こっちは任せて。」
「僕たちも戦えますよ。」
「よっしゃ、ようやく活躍できるっすね!」
三人は軍隊の前に立ち並んだ。すごい、カッコいい…。
伊織は剣を抜き、盾で身を守りながら着実に兵を倒していく。湊は相手の攻撃を妨害しながら素早い攻撃を繰り出している。圭は力ずくで兵を倒していく。皆、強いな。私、何の役にも立ててない…。
「フン、雑魚どもが。まあいい。日野唯我、お前には俺一人で十二分だ!」
振り下ろされた大斧を受け止めると、唯我は身を翻して不和龍一郎を蹴り倒した。
「うっ…。」
「降参の言葉は、早い方がいいぞ。無駄に意地を張るのは自分を滅ぼすだけだ。」
「そうやって、勝った気になってるな?残念過ぎる奴だ。」
不敵な笑みを浮かべ、不和は背中に装備していた槍を持って構えた。
「いくら武器を変えても、俺には勝てない。」
「それはどうかな、オラァ!」
不和龍一郎が槍を突き出した。すると、槍の先から勢い良く水が噴き出した。え、なんのマジック?
「お前、その槍は…?」
「水の槍だよ。ほら、お前らが昨日、島で探してた宝だ。」
ああ、あれか、あのやつ。あれ、私って語彙力低すぎ…?
「じゃあ、やはりお前だったんだな?白山岩男たち海賊を解放したのは。」
「そうだよ。白山岩男は俺の部下みたいなもんだ。おかげでこれ、水の槍を手に入れられたぜ。」
「横取りなんて、最低!」
私は思わず叫んだ。水の槍と、炎の刀。多分似たような物っぽい。
「おっと、そんな不名誉なこと言わないでくれるかな?」
不和龍一郎は地面に槍を突き刺した。次の瞬間、私の目の前の地面から大量の水が吹き出した。私はびしょ濡れになり、滑って転んで背中を打った。痛い。
「戦ってない奴を攻撃するのは卑怯だぞ。」
唯我は刀を構えた。そうだ、頑張れ唯我!濡れた拳を握って唯我を応援する。
「卑怯結構。頂点に立つのは俺だ!」
不和龍一郎は槍を突き出した。唯我はそれをかわすと刀を振る。それを不和は槍で防ぐ。
「俺が頂点に立つ。お前はここでお陀仏だ。」
刀から炎が吹き出す。そして、不和龍一郎の服に引火した。よし、勝った!
「残念、消火完了っと。」
不和は槍から水を出した。服の火は蒸気を上げて消えた。そんな、唯我の攻撃が防がれた…?
「炎の弱点は、水なんだぜ?」
不和龍一郎は槍で唯我を攻撃する。唯我は刀で受けるけど、炎はどんどん消えていく。これじゃあただの刀だよ、どうするの…?
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