6日目:Ⅳ 頼果、辛い記憶を思い出す。
「話した通りなんだが、まさか秀、お前じゃないよな?」
俺は秀に言った。俺達五人は、帰る途中で黄金の国に立ち寄った。海賊達を助け、宝箱を取った奴の候補を絞る為に。
「親友を疑うなんて、唯我らしいな。」
秀はジョークを聞いたかのように笑った。
「俺は、白山…えっと、岩男だっけ?そんな奴知らないさ。」
「一応疑っておいた方がいいと思ってな。最後には頂点に立つ為に、お前と戦うことになる。」
「唯我、お前、俺と唯我が残るの確定で話進めてるな?。」
秀は笑った。
「お前じゃないとしたら、残りは不和龍一郎とかが有力だな。他に強い奴は知ってるか?」
俺は秀に尋ねる。
「いや、今のところは把握していない。」
「そうか、なら不和の可能性が高いな。俺とも何度か戦っているし。」
「不和君って、唯我が出てくるまで滅茶苦茶強かったらしいよね。」
頼果が口を挟んで来た。
「俺がこの世界に来た時には既に一大勢力となっていたのは覚えている。」
秀が言った。秀はおよそ二週間前に魂の迷宮にやって来たという。
「あいつら、絶対に許さない…。」
伊織は拳を固く握った。
「アップルナインは兵も大規模な上、瓶に詰めた復活者を召喚してきますからね。」
黄金の国の大臣、明ケ戸達也が言った。
「そう、あれ強いっすよね。どこであんな瓶手に入るんだろ。」
湊が言った。確かにそうだ。復活者を召喚できる瓶。アップルナイン以外で使っている奴はいない。アップルナインが独自に発明した、もしくは何者かが協力しているのか…。
そもそも復活者とは、一度死後の世界へ行った者が、強い怨念などを持ち、魂だけ復活した存在である。そう、狐のお面から貰った本に書かれていた。だが、このことは仲間にすら秘密にしなければいけない。なぜかは分からないが、狐のお面はそう言っていた。
「アップルナイン、手強い敵になりそうですね…。」
圭が言った。俺は圭を見て答える。
「大丈夫だ、俺は絶対に負けない。」
圭は軽く微笑んだ。俺はゆっくりと頷いた。
「そろそろ帰るか。ボートを漕ぐぞ。」
「オッケー、じゃあまたな。」
秀に見送られて、俺達は黄金の国を発った。負けない、絶対に。俺は必ず頂点に立ち、元の世界に帰る。例えかつての親友と戦うことになったとしても…。
○ ○ ○
「明日で一週間か、速いよね。」
俺が展望台から夜の海を見ていると、背後から声が聞こえた。
「何の用だ?」
振り返らずに言った。
「いや、特に用とかは無いんだけどさ、ちょっと唯我と話したくなっただけ。」
「お前、知ってるだろ?俺は人と無駄話をするのは好きじゃない。もう会ってから一週間経つんだから、いい加減覚えてくれよ。」
言ってもたぶん無駄なことを繰り返す。頼果の性格も大体は分かっている。俺がちょっと言っただけじゃ絶対に変わらない。この後も話しかけてくるだろう。
「唯我ってさ、この世界の事、どう思う?」
案の定、俺の忠告はスルーされた。しばらく黙ってから、俺は口を開いた。
「つまりお前は元の世界へ戻りたくないってことか?」
頼果は知らない。この世界の、魂の迷宮の真実を。存在するはずの無かった、この世とあの世の狭間にある、魂の溜まり場。でも、それを教えることは出来ない。狐のお面との約束だ。狐のお面は俺にとって有利な情報を与えてくれる。信頼関係を築いておいた方がいい。
「なんかさ、どうしたらいいのか分からなくなって。」
「そんなこと、今更俺に言われても困る。自分の生き方なんだから、自分で考えろ。」
俺は海に映った半月を眺めながら言った。
「でも意外だな、お前がまだ迷ってるなんて。てっきり元の世界に帰るつもりだと思っていたが。」
頼果は魂の迷宮を、死後の世界だと思っているはずだ。普通なら生き返ろうと考えるんじゃないのか…?それとも頼果、何か知っているのか…?
「あのさ、実はさ…。」
「どうした?」
「この世界って、死後の世界じゃないらしいよ…。」
頼果、なぜそれを知っている…?何か可能性を考えろ、あの本を勝手に読んだのか?いや、そんなはずは無い。頼果は俺の部屋に入っていない。なら、狐は俺以外にもあの本を渡しているのか?そうならば、頼果は約束を破っていることになる。俺は考えられるだけの仮説を立て、一つ一つ潰そうとした。
「やっぱりあんまり驚かないか、唯我は…。」
頼果は寂しそうに言った。
「それを誰から聞いたんだ?」
「お面、兎のお面の人に、今朝…。」
恐らく、俺達が知らない時に頼果の前に突然現れ、そして突然消えたのだろう。でも、兎のお面?狐じゃないのか…?兎のお面って、確か白山岩男に宝の地図を渡したらしい…。
「何を聞いたんだ?」
「魂の迷宮は、死後の世界じゃないらしいよ。それだけ…。」
頼果は口を濁らせた。何か隠しているな。
「何を隠しているんだ?兎のお面から聞いたのは、本当にそれだけか?」
「ち、ちがうよ、隠し事なんかしてないから‼ほんとにそれだけだよ。」
何か訳があるのだろう、問い詰めるのはやめておこう。あまり深堀りするのは好きじゃない。
「唯我は知ってたの?」
頼果は俺に尋ねた。矛先を逸らそうとしているな。
「いや、知らなかった。」
俺は淡々と嘘をついた。
「それにしてはリアクション薄くない?」
「それがどうした?」
「まあいいよ、自分で考えるから。」
逃げるようにして頼果は去って行った。兎のお面、見たことが無いな。雲が半月を隠した。薄ら寒いので、俺も部屋に戻った。
○ ○ ○
「はぁ~…。」
私は屋根付きベッドに寝転がった。途中で自分から逃げたせいで、結局唯我から助言は貰えなかった。なんか話がごちゃごちゃしすぎててよく分からなかった。でも危なかったな、唯我、勘も鋭い。兎のお面が言ってた、死んだ人を生き返らせる方法のこと。あれは秘密にしとかないと。
唯我、全然驚いてなかったな。やっぱり、感情が無いのかな…。唯我にはずっと助けてもらってきた。唯我と出会ってなきゃ、今頃私は幽霊に襲われて、生きていなかったかもしれない。だから、恩返しがしたい。湊や伊織、圭みたいに戦うことは出来ないから、私は私なりに恩返しをする。唯我に感情を教えたい。本当の幸せを…。
幸せ、私も欲しいな。
不意に涙が頬を伝っていた。駄目だよね、あんなことで泣いちゃ。圭みたいに立ち直らなくちゃ。ちゃんと忘れて、前を向かなきゃ。明るく振る舞ってないと、空っぽになるぐらい寂しくなるから。
○ ○ ○
「望月さん、付き合って下さい…。」
あの日から、私の人生は変わった。少し早い冬の風が吹き始めた秋の終わり、人生初の彼氏が出来た。好きだった先輩から告白された時から、私は幸せの階段を上り続けた。あの頃は毎日が本当に楽しく、幸せだった。春、桜の咲く頃にあの人は卒業したけど、毎週末には会い続けていた。
けど、上り続ければいつか、頂点に辿り着く。そこからは、転がるように下るだけ。私の場合、転がる余裕すら無かった。足元の地面がいきなり無くなって、落ちるような感覚だった。
梅雨が差し掛かった日のことだった。降った雨が川の様に流れる泥だらけのグラウンドを眺めながら、湿気の多い放課後の教室で友達と話していると、突然知らない番号から電話がかかってきた。出ると、あの人の母親だった。鼻をすする音が混じったしゃくりあげる声の中から、少しずつ状況が分かって来た。飛び降り自殺、らしい。
なんで、どうして…?頭の中が真っ白になった。死ぬ前に、相談して欲しかった。私の前ではずっと笑顔でいてくれたけど、その裏では辛いことを抱えていたの?落としたスマホの画面はバキバキに割れた。机に伏してしゃくりあげた私の背中をさすって、友達たちは慰めてくれたけど、何を言っていたのかは覚えていない。というか、何も聞こえなかった。絶望のどん底に陥って、この世界が嘘だったという夢オチを願い続けた。
それから数日後、私はなんとか人と話せるようになった。物も食べられるようになった。明るく振る舞わなきゃ、辛いことは忘れて、無かったことにしなきゃ。そうしないと、動けなくなるぐらい辛くなるから。
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