3日目:Ⅴ 唯我、頼果と湊と伊織と圭を仲間として認める。
振り下ろされた剣は、首元ギリギリで止まっていた。俺はすぐ傍に立っている男を見た。花京院圭…。
「唯我さん、あなたはここで死ぬような人間じゃない筈だ。」
花京院圭は、騎士の腕を力ずくで押さえていた。俺はすかさずその場を離れる。
「お前…。」
「何ですか?」
「いや、何でもない。」
合った目をすぐに逸らすと、俺は騎士を蹴った。怯んだ騎士から剣を奪い取ると、傍にいた騎士たちに剣を向ける。
「命が惜しければ装備を捨てて逃げろ。」
数人の騎士が、兜を脱ごうとした。
「何をしている!我々は、アップルナインの騎士だぞ!弱腰でどうするのだ!」
さっきの騎士が、怒号をあげる。そして俺から剣を奪い取ろうとして、俺に掴みかかった。
「逃げた方がいいぞ。俺は人を殺したくはない。」
俺は剣を騎士の喉元に当てる。
「舐めやがって…。アップルナインの為ならば、この命、惜しくないわ!」
騎士の言葉につられるように、他の騎士達が俺に襲い掛かる。最初に襲ってきた騎士の剣を払落し、俺はそれを花京院圭に投げた。
「これで身を守れ。」
「はい!」
笑みを浮かべながら花京院圭は言った。俺は再び騎士達と戦う。刃と刃が激しくぶつかり合い、火花が散った。相手の人数が多いので油断は禁物だ。背後からの敵が一番危険だ。俺は建物の壁を背にして戦う。こうすれば背後から襲われる心配は無い。その反面、防戦一方になってしまい、攻撃のペースを相手に委ねてしまうことになる。そうなればなかなか決着は付き辛い。ここを打開するためには…。その時だ。突然目の前にいた一人の騎士がよろめき、転倒した。何が起きた?
「任せてください。」
花京院圭だ。圭は自慢の力を活かして騎士を蹴り飛ばす。
「礼は言っておく。」
俺は壁を蹴って前に飛び出した。騎士の不意を突いて剣をなぎ払う。
「おのれ…、ならばこうしてやる!」
騎士が声を絞り出して言った。ポケットに入っていた親指サイズの小瓶のような物を取り出し、栓を抜いた。次の瞬間、小瓶から煙が溢れ出した。
「あれは…。」
俺と圭は思わず後ずさりした。目の前には、禍々しい騎士の姿をした化け物が現れていた。歪み、尖った禍々しい鎧に身を包み、不気味なほどに白く細い腕で、骸骨の顔が彫られた剣を持っている。兜から覗くその顔は、骸骨だった。
「あれは、スケルトン…。」
圭が声を震わせながら言う。
「復活者を召喚したのか…。」
俺は身構える。危険な相手であることに間違いは無いだろう。
「奴らを殺せ!」
騎士がスケルトンに命令した。ゆっくりと頷くと、スケルトンは俺たちに近寄って来た。
「こっち来んな!」
圭は剣を目の前で振ったが、そんなことは気にせずにスケルトンは近づいて来る。
「避けろ!」
俺は叫ぶ。圭は慌てて体を捻って避けた。スケルトンの剣は地面を引っ搔いた。暗い街に金属音が響き、火花が散った。俺はスケルトンの横腹に剣を入れる。ガチンと音がして、鎧に剣がぶつかった。衝撃でスケルトンの動きが鈍った。ここからが反撃だ。俺は剣を振ってスケルトンの膝を斬った。関節が外れ、片足を失ったスケルトンはよろけて倒れる。
「よし!」
圭が拳を握り締める。
「終わりにしてやるよ。」
俺は剣を構える。そして、勢いよくスケルトンの首めがけて振った。スパッと音がして、スケルトンの首が宙に舞った。ゴトリと音がして、兜を被った頭蓋骨は地面に転がった。
「すっげー…。」
感心したように圭は俺を見た。
「さあ、帰るぞ。」
俺は圭を見た。
「えっ?」
「何驚いてんだ?行くぞ。」
「じゃあ、仲間にしてくれるんだ。」
圭は微笑んだ。
「付いて来たいなら好きにしたらいい。」
「ありがとう、唯我さん。」
俺は黙って宿に向かったその時だ。俺は禍々しい殺気を感じて振り向いた。なんと、首の無いスケルトンが動いていたのだ。俺は反射的に数歩下がる。ゴトリ。何かを蹴った感触がした。なんだ?
「うわぁぁぁ!」
圭が悲鳴を上げた。同時に、俺は右足に噛みつかれるような痛みを覚えて下を見下した。足には、頭蓋骨が噛みついていた。
「痛ってぇな!」
足を振り、頭蓋骨を振り払おうとしたが、なかなか離れない。俺は剣で頭蓋骨を半分に斬った。パカッと割れた頭蓋骨は、半分ずつになってもまだ動いている。
「斬っても無限に動くのか、厄介だな…。」
きりが無い。どうしたらいいんだ?考えろ、考えろ…。
「圭!」
俺は叫んだ。
「なんですか?」
「刀を取って来てくれないか?」
燃える刀なら復活者を倒せる。
「分かりました。僕のこと信用してくれたんですね?」
ニッと笑い、圭は俺を見た。
「この際仕方ない。」
俺は淡々と返した。圭は頷いて宿の方を向いた、その時だ。
「探してるのはこれでしょ?」
聞き覚えのある、あの声がした。
「頼果…。」
「ほら、私たちがいた方がよかったでしょ?」
「これからも付いていかせてもらうっすよ!」
伊織、湊…。
「はい、可愛いヒロインからのお届け物だよ。」
頼果が俺に刀を手渡した。
「邪魔者が揃ったようだ、まとめて消えてもらおうか。」
倒れていたアップルナインの騎士達が剣を持って立ち上がった。
「残念だな。俺は、いや、俺達はそう簡単には消えねぇよ。」
俺は刀を抜いた。炎が吹き出す。頼果、湊、伊織、圭が俺の隣に並ぶ。
「今俺達って言ったよね?ねぇ、唯我、言ったよね?」
俺の右隣に立った頼果が、俺を覗き込むようにして言った。
「ああ、言ったよ。耳、悪いのか?」
俺は頼果を見て言った。そして、その向こうにいる伊織、そして左隣にいる湊と圭を見る。
「仲間ってのは、案外良い物なのかもしれないな。」
雲が晴れ、夜空には月が顔を出す。燃える刀が街を照らす。
「とっとと消えろ!」
騎士たちがこっちに走って来る。
「伊織、これを。」
俺はさっきまで持っていた剣を伊織に手渡した。
「任せて。」
俺から剣を受け取った伊織は、襲い掛かる騎士たちの剣を次々と受け止める。
「僕も加勢します!」
圭が騎士達を蹴る。
「ありがとう、圭君!」
「僕も戦えるっすよ!だって忍者っすからね!」
湊が騎士達を素早い攻撃で翻弄する。
「ちょ、こっち来ないで!」
頼果の声がした。見ると頼果の周囲を頭蓋骨の破片を取り囲んでいる。骨はカタカタと音を立てて近づいている。危ない、俺は頼果の方へ走った。
「安心しろ、俺がいるだろう?」
刀は炎を纏って骨を焼き尽くす。頼果を囲んでいた骨は煙になって消えた。
「さあ、成仏しな。」
近づいて来る首の無いスケルトンを、俺は刀で切り落とした。一瞬でスケルトンは炎に包まれ、煙となって消えた。
「スケルトンが倒された…。」
騎士達は皆、驚いている。
「次は誰の番だ?」
俺は湊、伊織、圭と戦っている騎士達に刀を向けた。
「て、撤退だぁ!」
慌てふためいてアップルナインの騎士たちは逃げていった。俺は刀を鞘にしまった。それにしても、本当にこの刀は凄いな。なぜこれだけが復活者を倒せるのか、そしてなぜこれを俺だけが使えるのかは一切不明だが。
「さあ、これからどうする?」
俺は皆に尋ねた。
「だから気持ちの切り替え早すぎだって。こういう時は、戦いの後の感傷に浸るものだって。」
「別に浸るような感傷も感じてない。とにかく、次にやることを決めた方がいいと思っただけだ。」
「それよりさ、寝ないっすか?もう真夜中なんだからさ。」
湊が言った。それもそうだな。俺はあくびをしながら宿に向かった。四人の仲間と共に。
「お前、何か辛いことがあったのか?」
俺は圭に言った。
「え?」
「ほら、お前、元の世界に戻りたくないって言ってただろ?苦しいことがあったから、元の世界に戻りたくない。そういうことかと思うんだが。」
圭は視線を落とし、悲しそうに笑った。
「やっぱりあなたは鋭い。その通りですよ。」
「なんでも聞くよ。私たち、友達だからね!」
頼果が言った。湊も伊織も頷く。
「実は、僕の両親は殺されたんです。」
「え?」
一同は、静まり返った。悲しそうに圭は話し続ける。
「僕が小学生の時です。通り魔事件でした。犯人もまだ見つかってなくて、僕はどうしたらいいのか分からなくって。毎日海ばかり眺めていました。父さんも母さんも、なんであんな目に遭わなきゃいけなかったんだよ…。」
圭の目からは涙が零れていた。
「分かるよ、その気持ち。頼果も、大切な人失ったことあるから。」
頼果が俯きながら圭に言った。
「圭、お前の気持ちはよく分かる。現実ってのは、時に途轍もなく残酷に牙をむく。けど、それから逃げるのは違うんだ。」
圭は顔を上げてこっちを向いた。
「生きろとは言わない。だが、お前が生きるのを諦めたら、そこで終わるんだ。生きている限り、幸せになれる可能性はある。本当の幸せってのは、辛さを乗り越えた先にあるんだ。悲しみを受け入れて、乗り越えて、強くなれ。両親に見せる顔は、強い方が親孝行だろ?」
圭の表情が変わったのが分かった。
「分かった。僕も、もう一度生きてみます。頂点に立って、必ず元の世界に戻る。」
「それでいい。時が来たら、正々堂々勝負しようぜ。」
圭は微笑んだ。
「唯我さんも馬鹿だなあ。なんでわざわざ僕を生きる気にさせてくれたんです?敵が増えるだけですよ?」
「生きろとは言ってないだろ。」
「これが、唯我だよね。ただの冷たい奴に見えて、実は皆の心を救ってくれる。一生ついていくからね、よろしく!」
頼果が言った。大袈裟なんだよ、一々。
「そうか、勝手にしろ。」
俺は言った。これが、本当の仲間か。いいな。
○ ○ ○
「どうやら一大勢力が誕生したようだな。」
虎のお面の男が言った。大理石を敷き詰められた円形の巨大な大広間に、その太い声がこだまする。
「今の所、勝率百パーセント。現状の最強勢力の一つ、アップルナインにも勝利したとか。」
言葉を発したのは兎のお面を被った人だ。どこか幼い雰囲気がある。
「おまけに“閻魔の武器”の一つである炎の刀を使いこなすというらしい。」
そう言ったのはパンダのお面を被った人だ。こちらも幼い雰囲気がある。
「日野唯我。奴は一体何者なんだ?」
虎のお面は言った。その時、ギシギシと音を立てて、重い扉が開いた。
「遅かったな。」
「すみません。新規参加者にルール説明をしていました。」
子供っぽいあの声がした。狐のお面だ。
「おい、お前、日野唯我について何か知っているか?なんであいつは炎の刀を使えたんだ?」
虎のお面が尋ねる。
「…。」
狐のお面は黙った。
「君が連れて来たんだろ?彼の正体はなんだい?」
兎のお面が聞く。
「普通の人間です。至って、普通の。僕はこれから新規参加者を確認しないといけないので、ここで失礼します。」
早口でそう言うと狐は部屋を出て行ってしまった。
「全く、文字通り狐につままれた様な気分ですね。」
パンダのお面が言う。宮殿のように広い廊下を歩いていた狐は、何かを思い出したかのように立ち止まってそっと呟いた。
「兄さん…。」
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