3 決着の閨

 今になってちょっと、わかった気がした。


 全部忘れて二人で逃げよう。そう、ハルが言い出した理由だ。


 アレは、だから、……軍人の発言じゃなかったんだろう。一個人、ああ、アイツ自分で言ってたな。お姫様の我儘だったんだろう。


 死に方じゃなく生き方を選ぼうとしたんだ。やらかした事も自分の境遇も何もかも全部無視して一人の人間として、生きようとした。だが、その道を選ぶ自分を精神面は潔癖な猫は自分で許せない。


 だから、他人のせいにしたかったんだろう。いろんな意味で重すぎる荷物を一緒に背負う誰かが欲しかった。


 そして、本当にそれが我儘だと心の底から思ってたから、絶対断るだろう状況下で、絶対断るだろう俺にお願いしてきた。


 甲斐性のねぇ話だな、俺よ。だが、それがわかったから今からもう一度二人で逃げようって提案しても意味はねえ。


 あいつは絶対乗ってこないだろうし……そもそも俺に、その気がねぇ。


「――邪魔なんだよォ!」


 吠え、蟲を殺し、巣の奥へと進んで行く。


 カマキリの胸部にスラッグ弾をぶち込み、回転リロードスピンコック


 してる途中でチェーンソウブレイドを振るい、蟲の頭を、鎌を、胸部をぶった切る。


 足を止めず、ルイと二人で夢の中突き進んだ道を、一人で――けれどあの物量無限の夢とは違って散発的にしか現れない蟲を殺して進んで行き……やがて、見えた。


 この特攻の終点。蟲の巣の最奥。蟲の女王様の閨……。


「――退け!」


 蟲を蹴散らし、スラッグ弾を叩き込み剣を突き立てぶっ殺し、俺はそこへと踏み込んだ。


 そうして踏み込んだ俺の目の前に現れたのは、広い部屋だ。あの縦穴に近い光景。

 いや、むしろ縦穴の方がこの女王の間に近づいてたんだろう。


 壁一面にびっしり、白く輝く卵がくっついてやがる。部屋のところどころにカプセルやなん頭の機材、コンテナ……全部全部放置されて年月経ってそうな古びたそれが置かれていて、そしてその中心に、バカでかい蟲がいた。


「よォ、女王様。謁見に来ましたよ、」


 俺はチェーンソウブレイドを噛み、口で持ち、ショットガンの弾倉を入れ替える。


 そんな俺を、女王様――“クイーン”はただただ眺めていた。


 砲撃してきた黒い老体どころじゃねえ。その数倍はあるだろうって言う、デカい、そして哀れな白い蟲。


 それこそもう完全に、蟲を生むための機械みたいな扱い受けてたんだろう。カマキリみたいな形状をしている。だが、足がない。鎌もない。移動するために必要な部品が全部全部切除されてて、頭と胸部と膨れ上がった腹だけが残って、そして研究の名残なんだろう。パイプやら杭やらがその身体に突き刺さり、動けないように床に縫い留められてもいる。


 “クイーン”の触覚がピコピコ動いてる。大顎がお喋りしたさそうにカチカチ動いてる。


 だが、ここはテメェの思い通りになる夢の世界じゃねえ。残酷な現実だ。


「何言いてえんだ?わかんねえよ……」


 呟き、弾倉交換を終えたショットガンを、回転リロード。

 そしてそのまま、女王様のどでかい複眼へと俺はショットガンの銃口を向け……。


「……そもそも聞く気もねえけどな。死――」


 言いかけた俺の耳に、ふと、ガリという音が響いた。

 足音だ。蟲の足音……後ろ?


 直感すると同時に、俺はその場を飛びのいた。直後――つい数秒前まで俺が立ってた場所の床が、突如として抉れた。


 大鎌に削り取られたんだろう。そう言う跡が、床に出来る。

 だが、それを作ったはずの蟲の姿が見えない。


 いや、……目を凝らせば見える。白?違う、ほとんど透明に近い蟲の輪郭が、ぼんやりと揺らめくように。


「……保護色だァ?」


 もしくは、もはや光学迷彩に近いかもしれない。そんな蟲が、こっそり……女王の間に踏み込んだ俺の背後を取って殺そうとして来やがった。


「護衛か?まだ隠し玉あったのかよ。……まったく、」


 冷静に冷静に毒吐いてイラつかないように。とりあえず俺は見えてるうちに殺しておこうとその半透明のカマキリへと、ショットガンの銃口を向け……だが、その瞬間、だ。


「あァ?」


 その半透明の蟲は、避けた。ああ、躱しやがった。俺が撃つ前に、スラッグ弾の射線から素早く飛びのき、距離を取って景色に紛れていく。


 知能があるのか?少なくとも戦闘を理解してる蟲らしい。それが、……光学迷彩持ち?


親衛隊エリートかよ……ダリィな」


 ダリィからいったん無視だ。シカトこいて見失った光学迷彩持ちの姿を探そうと目を凝らしつつ俺とりあえず女王様に一発ぶち込んだ。


 ダン!放たれたスラッグ弾が身動き取れないドデカい的クイーンへと突っ込んでいき……だが、だ。


 カン!金属音と共に、スラッグ弾が空中で弾かれ、彼方へと飛び去り壁の卵を一つ砕き割る。


 そして、スラッグ弾を弾いた空間が揺らめき、そこに輪郭が現れる。


 カマキリだ。エリートだ。大鎌を重ねてわざわざ角度作ってスラッグ弾弾き飛ばしやがった、透明な蟲。


 さっきの奴か?いや、違う……。


「2体、いるのか?」


 それだけじゃねえ。距離あるとは言えスラッグ弾防ぎやがった。砲撃してくる黒い老体並みの硬さがあるのか?光学迷彩持ちかつ知能高い上に?


 とりあえず俺は回転リロード……してる間に、どうやら追い付いてきちまったらしい。


 足音。人間の足音がその場に響き渡り、そちらに視線を向ける前に、俺はその場から飛びのいた。


 銃弾が地面を抉る。ハルだ。ハルが小銃を俺に向け……いよいよあっちも覚悟決めてきたらしい。容赦なく背中撃ってきやがった。


「ハッ……どうすっかな、」


 とりあえず手近な機材。その影に俺は身を隠し、状況を確認する。


 入口にハルがいる。もう、じゃれるのは止めで殺す気満々だ。その上、光学迷彩持ちで硬い、姿の見えない親衛隊が最低2匹。


 セオリーで言えば一番殺しやすくて一番鬱陶しい奴から潰していくべき状況だろう。この状況でその条件に当てはまってるのは……ハルだ。


 今更、……躊躇うのは野暮だな。


「ハル!」

「命乞いかい?」

「……楽しかったよ、色々」

「そうだね。……私もだ」


 言葉と共に、銃声が響く。俺が遮蔽にしてる機材がガンガン音を鳴らして砕かれ始める。


 それを耳に――俺はチェーンソウブレイドのトリガーを引き絞り、物陰から飛び出した。


 キィィィィィィィィン!


 俺の手の剣が、金切り声を上げる。


 そいつを手に、迷いなく駆けていく先にいるのは、ハルだ。ハルの小銃、その銃口が俺へと向く。


 だが、ハルはトリガーを引くのを躊躇った。


 ああ、撃てねえだろ……大義の為になァ。俺を撃つと流れ弾が“クイーン”に当たる。そう言う位置に俺は立った。


「――撃って見せろよォ!女王様ごとなァ!」

「君は本当に……、」


 苛立たし気な表情を浮かべ、ハルは小銃を弄る。フルオートをやめにするんだろう。


 だが、その一瞬のうちに、もう……スラッグ弾で狙える距離だ。


「甘いんだよォ!」


 ハルに。あるいは俺自身の迷いを吹っ切るように叫び、俺はショットガンのトリガーを引いた。


 放たれたスラッグ弾が、ハルへと突っ込んでいき――だが、その直前で、だ。


 ガン!と言う音と共に、透明な壁にぶつかって、弾かれて行った。


 親衛隊だ。光学迷彩持ちだ。やっぱり、女王様だけじゃなく姫(ハル)も護衛対象らしい。


 距離の問題か。角度が付き切らなかったのか。サイズの問題で、匹敵しても黒い老体程の硬さはないのか。スラッグ弾を防いだ親衛隊、射線に差し込まれた半透明の大鎌が弾け跳び、汚い汁が白い空間にまき散らされる。


「うらやましいぜ……荷物が多くて大変だなァ!」


 吠え、俺はその居場所がわかるようになった蟲へと突っ込んでいった。


 右側の大側を失くした親衛隊。ダメージ負ったせいか?半透明くらいでぼんやり姿の見えるそいつが、肉薄する俺へと大鎌を振り下ろしてくる。


 そいつを――死を目の前に、けれど俺は躊躇なく更に前へと踏み込んだ。


「邪魔だァ!」


 金切り声を上げる剣を振り回す。すれ違いざま、振り下ろされる大鎌。その根本を叩き切り、返す刀でついでに右足も1本跳ね飛ばして……これで一匹はほぼ無力化だ。


 後、……ハル入れて2匹。

 俺はショットガンを回転リロードスピンコック


 無力化した親衛隊の脇を通り抜け、ハルへとショットガンの銃口を向けかけ――。

 ――だが、その一瞬の間に、ハルは銃を構え直していた。


 静かに、冷徹に――銃口と視線が俺を襲う。


 フルオートはやめたんだろう。誤射を嫌って来るのはおそらく単発。小銃は精度が高い。この距離で弾道はほぼ射線と同一。見るのは、ハルの指……。


 全て全て、一瞬の出来事だ。

 ハルの指が動く。トリガーが引き絞られて、小銃の奥。ライフリングの奥。その最奥でカチリと火花が散る。瞬間――俺は、剣を振るった。


 カン!剣を振り切った俺の目の前で、金属音が鳴り響いた。


 その光景の向こうで、ハルが、ありえない物を見たように目を見開いてやがる。


 ああ、そうだな。神業だ。二度目はねぇ。だが、……一度だけあれば良い。


「――悪運だけは強ェんだよォ!」


 吠えると同時に、俺は持っていたチェーンソウブレイドを、ハルへと投げつけた。


 トリガーを離してもまだ刃の回転は数秒残ってる。その数秒あれば、投げた剣はハルに届く。


 躱せる体勢じゃないだろう?だが、お前も好きで剣振ってたろ。反応するだろ?

 ホラ、防げよ……。


「――ッ、」


 苦悶の表情を浮かべながら、ハルは手に持ってた小銃で、チェーンソウブレイドを弾き飛ばした。


 チェーンソウブレイドの刃が小銃に食い込み、ギリギリ弾いたハルの手にあるのはもう、銃の残骸だけ。もう、無力だ。……少なくとも俺が肉薄するまでの数秒は。


「これで――」


 さよならだ。叫びトリガーを引こうとした俺の身体に、けれど、突如、悪寒が走った。


 音が聞こえた。蟲の足音。左後ろ……。


「――クソ、」


 毒づいて咄嗟に身を逃がす。痛みが走った。背中、左側……傷の深さは?

 後だ。……全部全部、後で考えれば良い。


「クソがァ!」


 半ば転ぶように地面を転げながら、俺は背中を切りつけて来やがった半透明の蟲。


 片方の鎌にべっとり血がくっついてるそいつを睨み、トリガーを引く。


 ダン――放たれたスラッグ弾が、不意打ちしてきやがった親衛隊の蟲の胸部を貫き、汚い汁をその場にまき散らす。


 ああ、クソ。だが、これで良い。上々だ。蟲は2匹やった。あとは“クイーン”と――。


 キィィィィィィィィィン。金切り声がその場に響き渡る。


 ――得意武器持った猫の相手だ。


 身を起こして回転リロード――してる暇もねぇみてぇだな!


「クソが!」


 起こしたばかりの身体をすぐさま縮め、身を屈める。

 そんな俺の頭上を、真一門に振り抜かれたチェーンソウブレイドが掠めて行った。


 ハルの視線が、俺を見下す。感情を殺し切ったような視線。そいつを見上げながら、俺はショットガンをハルへと突き出した。


 弾は装填されてない。だが、このショットガンには銃剣が付いてる。皇族特務の団長が持ってた、馬鹿みたいで後ろ暗い銃剣。蟲狩り専門だってのに、対人用の最後の砦。


 そいつを俺は突き出して――けれど、ハルはそれを、冷静に見ていた。


 片手で弾く。突き出したショットガンの銃身を左手の甲でたやすく弾き、降り抜いたばかりの右手の剣。その刃を返す。


 ……反応したか。ああ、そうだろうな。お前も反射神経良いよな。すげぇ奴だよ。


 だから……防がれると思ってたぜ!


「――ハッハァ!」


 弾かれたショットガンをすぐさま手放し、突き出す勢いのまま素手で、ハルの細い首を掴み取る。躊躇なく掴み、躊躇なく握る。


「ぐ……、」


 ハルが苦悶の声を漏らす。苦し気に表情を歪めながら、首を握り小柄な体を掴み上げる俺を睨みつけてくる。


 そして……ここにいる女は大抵首絞めても反撃してくるらしい。金切り声が傍で響く。苦悶の表情を浮かべながらも、ハルは妖刀“刃狂魔”を振り上げて来てる。


 だが、見えてる。だから俺はそのチェーンソウ。それを握り締めるハルの細い手首を、左腕で受け止めようとして――。


「――ッ、クソ!」


 寸前で切り替えて、腕力と背筋、まだ動く体の全部を使って、ハルを投げ飛ばした。


 ハルの小柄な体が機材やら蟲の死骸を飛び越えて、この場所の奥。

 “クイーン”の頭にぶち当たり、崩れ落ちていく。


 それを俺は眺め、今手放したショットガンを持ち上げ、とりあえず回転リロードスピンコック


 そして、自分の左腕を眺める。だらだらと袖から指を伝い血が白い床へと零れ落ちている。


 ……なんだよ、くっついてんじゃねえか。しびれて感覚ねぇけど。

 動くか?……動くな。指は動いてる。ただ、動きが鈍いし感覚が飛んでる。さっき不意打ち大好きクソ蟲野郎に切られた時、左腕が逝ってたか。


 まあ、……死んでねぇだけマシだな。


「まったく……」


 呟き、歩み寄る。身動き取れずただただ触角をピコピコさせてる“クイーン”。そしてそれを背に地面に崩れ落ち……剣を杖代わりに起き上がってるハルへ向けて。


「ゴホッ……ゴホッ。ハァ……酷いねまったく。それがロイヤルナイツの戦い方かい?ほとんど悪者だよ」

「チンピラだって言ってんだろ?勝ちゃ良いんだよ、勝ちゃ。スラムの頃と同じで、もう一人ぼっちだしな」

「寂しいことを言わないで欲しいな、ジン」


 呟きと共に、ハルは俺に視線を向ける。咳込んではいたが、それだけだ。あっちは大してダメージ負ってないらしい。そして、戦意も、なくしてない。


 キィィィィィィン。金切り声をこの場に響かせながら、ハルは言い放った。


「……すぐ、会わせてあげるよ。大切な仲間にね」

「ハッ!良いね……どっちも悪だ」


 俺は嗤って、ハルへと歩み寄って行く。

 ハルは赤熱する剣を手に、俺を眺め、身構え……そして言った。


「最後に一度だけ、聞くよ。ジン。私と――」

「女々しいぞ。……わかり切ってる質問すんなよ」

「……そうだね。その通りだ」


 そう笑みを零し、ハルは両手で剣を握り――身を屈めた。


「私もすぐに会いに行く。先に逝っててくれ」

「テメェだけ逝け。俺は天寿を全うする」


 その俺の言葉に、ハルはどこか愉しそうな笑みを零し――そして次の瞬間。

 鋭く、素早く。ハルは駆け出した。


 キィィィィィィン!金切り声を上げる剣が床を削り火花を散らし、小柄な少女。軍曹殿は、俺へと正面から突っ込んでくる。


 俺の恩人だ。いろんな意味で。こいつがいなきゃ俺は死んでたし、こいつがいたから俺は真っ当な生き方みたいな……そう言う夢を見れるようになった。


 そいつが、俺へと切り掛かってくる。

 そいつへと、俺は銃口を向ける。


 叫ぶ剣が振り下ろされる。金切り声が近づいてくる。

 それをただ眺めながら、俺は、トリガーを引き絞った。


 ダン!

 金切り声を塗り替えるように、銃声がその場に響き渡る。


 切り付けられた俺の左肩で、肉が抉られ骨が削られ、痛みが走る。


 だが、――その痛みは一瞬だけだ。


 すぐさま鋸の回転は遅くなり、浅く俺の肩に食い込んだまま、刃の群れの動きは止まる。


 そしてハルはどこか呆然と、あるいは苛立ったように、俺を睨みつけていた。


「どうして……話が、違う。殺し合いのはずだ。お互い様だ……どうしてわざと外した!?」

「……別に、外してねえよ」


 それだけ呟き、いまいち感覚ねえし動きも鈍い左腕を持ち上げ、俺は、俺に刃を突き立てているハルを、左手で抱き寄せた。


 ――そして、俺は回転リロードスピンコック


「俺は俺の目的を優先しただけだ。……戦術目標をな」

「な……まさか、」


 呟きと共に、ハルは振り返る。その視線の先へ、俺は再びトリガーを引いた。


 放たれたスラッグ弾が、さっきの一発で複眼を砕かれて苦し気に身じろぎしてる蟲の女王様に吸い込まれて行き、別の複眼を潰す。


 更に、回転リロード。トリガー。回転リロード。トリガー。回転リロード。トリガー。


 何発も何発も、頭部に……そして胸部にスラッグ弾を喰らい汚ねぇ汁を白い部屋にまき散らす女王様が、不自由な体で大きく身じろぎし……やがて、動きを止める。


 死に様は結局蟲だ。最後までピコピコ動いていた触角もまた動きを止め……それで、ああ。終わりだな。勝った。俺は目的を達成した。


「テメェの悪夢を殺してやったぞ、ハル。ハッ、これで、俺の勝ちだな。テメェの御大層な大義も無くなった。諦めて、……生きろよ」


 そう挑発的に言い放ち、俺はもう一度、回転リロード。


 そんな俺の腕の中で、ハルはどこか呆然と俺を見据え……そして次の瞬間、苛立ちに駆られたように表情を歪めた。


「生きろ、だって?……これで、私が許される訳が、」

「それを決めるのはテメエじゃねえだろ?無法地帯スラムじゃねえんだ。俺はもうそこを抜け出した。だからまともなルールを押し付けてやる。真っ当に法で裁かれろ」


 言い放った俺を、ハルは信じられないとばかりに目を見開き眺め、……それから、やがて一つため息を吐くと、呆れたように呟いた。


「君は、本当に……」


 いや、呟きかけた……だろう。

 突如、ハルは俺を突き飛ばしてきた。


 急なことにまるで反応できずただただ突き飛ばされた俺のすぐ真横を、何か巨大な影が通り抜けた。


 蟲だ。カマキリ。大鎌と女王を奪われて、それでも尚噛み付こうとする親衛隊。


 そいつが、俺を突き飛ばしたハルへと突っ込んでいき――。


「……詰めが甘いね。手がかかるよ」


 ――呆れたような表情で呟くハルへと、大顎が、襲い掛かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る