第92話 開店日
そんなこんなでミォナのお店の、開店の日がやってきた。
「今日はみんな、来てくれてありがとう! 開店前に、ちょっとだけミーティング、しよ!」
お店はそれほど大きくないし、元々ミォナの母親がお店を開いていた過去もあり、棚などの
私達……臨時の店員四名は、奇麗に商品が陳列された、小さめのコンビニくらいの広さのミォナのお店のカウンターの前で並んで立っていた。ミォナは店主らしく、みんなの顔を見ながら、これからの説明をしていく。
「ちょ、マリー、大丈夫? 顔が青白いけど」
「だだだだだっ、だって、そそそ、外、ほら……あんなにっ! 人がっ!」
私が震える指で外を指す。そこには、開店の時を今か今かと待つ、街の住人……お客様が、列をなして待っていた。おそらく、数十人はいる。
大した宣伝はしていないはずだが、やはりそこは町長であるアルトンの力だろう。街の集会なんかで一言いうだけで、拡散力のある人間に的確に情報が伝わる。伝わってしまう。
「ねー! 嬉しいね! あんなに一杯来てくれるなんてっ!」
「はい……」
そうだよね……喜ばないと。ミォナの念願のお店なのだから。
「えっとね、アリシアは、カウンターでお会計をしてくれる? 看板娘、お似合いでしょ! 街の人にもよく知ってもらってるし。商品の一覧は見た?」
「もちろんです! 商品は把握したので、一覧から値段を見れば、計算できます! おめでとうございます、ミォナ。私も店員さんがやれて嬉しいです! お仕事は生まれて初めてなんです」
「頼りになるね、アリシアは。ありがと! じゃ、シャルロッテとマリーだけど……店内を見て回って、お勧めの商品をお客さんに紹介して! あと聞かれたら、商品の説明とかもしてあげてね。魔法の関わる商品なんかは、二人が一番詳しいからね」
「まっかせなさいよ! 私が、一番、詳しんだから」
シャルロッテはえっへんと胸を張る。この子の自信を、半分くらい分けて欲しいところだ。
「わ、わかりました……でも、わからないことがあったらどうしよう……滅茶苦茶怒られるかもしれない……! 怒鳴られたらどうするの……クレーマーが来るかも……」
「何でほとんどアンタが仕入れたのに分かんないことがあんのよ! バカ!」
「シャルロッテが助けてくれますよね? ね?」
「ったくしょうがないわね。私のこと、守ってくれるんじゃなかったの?」
「暴漢が来た時だけ呼んでくれれば……後は引っ込んでます……」
「はい、はい、マリー、店内から逃げない。見て回っていたら商品が減ってきたことにも気づくと思うから、それはメイさんに伝えてあげて。ってことで、メイさんは、商品が減ったら、裏から補充してくれる?」
「かしこまりました。常に全ての棚が一杯の状態を保たせていただきます」
「ね、ねぇ、それ私もできますよ? 私がそっちやった方がよくないですか?」
一番人と関わらなくて済みそうな仕事だというのに、どうして何でもできるメイに任せるのだろうか。適材適所を考えれば、それは私の仕事だ!
「いえ……それはできません、お嬢様」
「なぜですか、メイ!」
「私は……お客さんに話しかけられて、わたわたして焦っているお嬢様の姿を一杯見たいからです! フフッ」
「なんでっ! これは命令ですよ、メイ! 私と代わりなさい!」
「ここでの最高責任者はミォナ様です。故に本日一日、私はミォナ様に従うことになりましょう。嗚呼、お嬢様……本当はお力になりたいのですが……大変申し訳ございません」
「くっ……! この裏切り者ぉ……」
「お姉さま、見苦しいですよ……そろそろ観念してください……」
「うぐぅっ……」
「ってわけで、メイさんもありがと。で、最後、アタシは、開店したら外で、お店に入れる人数を考えて、少しずつお客さんを店内に誘導する。全員一気に入ったら、ぎゅうぎゅう詰めになっちゃうからね。そんなとこかな、何か質問はあるー?」
特に誰も質問はないようだ。みんなわくわくするかのような表情で頷いている。主に私以外は。
「それじゃ、開店するよ! 持ち場についてね」
ミォナがそう言うと、各自それぞれのいるべき場所へ進んだ。
ミォナは、入口の前で、少しだけ、立ち止まった。
「ママ……来てくれてるよね……?」
一人、小さく呟くミォナの言葉が聞こえてしまって、私は思わず、そっと背中を撫でた。
「マリー……」
「お母さんも、きっと喜んでますよ」
「うん……うん! 今日から、この街に。またママが生きた証が、戻って来るんだよ。私が止めない限り、ずっと、ずっと。ここにあるんだから」
「……はい。ずっと変わらず、ここに在れるように。私も協力しますから」
「マリーのおかげだよ! だから……接客も頼むね!」
「わかってますよ、ミォナ。頑張ります」
そうだ。今日はミォナの夢が叶う日なのだ。邪魔になるようなことはしたくない。私だって、アリシアと出会って変わったのだ。
精一杯、この子のために、役に立てるよう頑張ろう。ここがこの街にとって、かけがえのない場所に戻れるように。
「それじゃあ、開けるよ! どうぞ、いらっしゃいませ! 皆様、今日はお越しいただいて、ありがとうございます!」
ミォナは扉を開け、元気よくお客さんに挨拶をする。数組のお客さんが、ついに店内へと入ってくる……
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