第二部 第二章 取り返しただけ
第59話 魔法陣の完成
「出来た! できたできたできた! ついに出来たぁーーー!」
私は歓喜のあまり、大声で叫ぶ。メイも、アリシアも家の中にいるが、関係ない。
私の机の前の大きな紙の上に、メイが入手した座標を盛り込んだ、魔法陣のプロトタイプが出来上がった。あとはこれを書斎の地面に記して、既に用意した魔法の絨毯を持ってシャルロッテのところに転移するだけだ。
「お嬢様……ついに成し遂げたのですね……メイは感激しております。その涙ぐましい努力に……」
「メイ、本当に本当にありがとう! やりました、私やりましたよ、辛く、長い戦いでした……」
本当に、全部整った。魔法の絨毯は帰還時の始点としての魔法陣で、帰還用の終点の魔法陣は、書斎に描くこの魔法陣に織り込んである。
「お姉さま、何事ですか?」
「アリシア、私やりましたよ。アリシアぁ~」
「わ、なんですか、お姉さまがそんなに素直に喜んでいるなんて珍しいですね」
「今晩にはわかります。アリシア、本当に、アリシアに見せたいものがあるんです」
「私に……見せたいもの?」
アリシアは首を傾げている。もう言ってしまってもいいのだが、ここまできたらその瞬間まで言わずに置きたい。もしかしたら、失敗する可能性もあるし、ぬか喜びはさせたくない。
「さっそく書斎に描いてきます!」
私がそう言って居間から書斎へ向かおうと席を立った時、玄関の扉がこんこんとノックされた音がした。
「ふぁっ……居留守……」
「そこはいつも通りなんですね、お姉さま……」
アリシアが呆れながら玄関に向かう。
「だ、駄目ですよアリシア、危険ですよ……私たち三人の誰かじゃないなら、敵ですよ」
「リサさんかもしれないじゃないですか」
アリシアが玄関に向かおうとするところを、メイが制止した。
「しかし、念のためです。私が応対しましょう」
そうしてメイが玄関扉を開けると、そこには予想外の人物が立っていた。
「今日やるんでしょう? 来たわ。マリーに、そう伝えて」
「ラピス⁉」
私はメイに説明した声を聞いて、それがラピスのものだとすぐ分かった。そして思わず玄関へと駆け寄った。
「どうしてここに?」
「水臭いわ、森の白魔女。今日危険を冒すのなら、私も側で見守る。だって、私達、もうアレでしょ。マリー、言ってたじゃない」
「アレ?」
「ほら、その……アレよ。何て言うか……ソレよ」
「アレ? ソレ? 何をいいたいの? ラピス」
「と、友達、でしょ」
「わぁ! うん、そうですね、私達、その、友達です!」
思わずぱっと笑顔になって、私は答えた。ラピスは犯罪の片棒など担ぎたくないから、自分は技術を教えるだけだ、と言っていた。でも今は、計画を実行するなら側で見守ると言ってくれている。
何度も通って教えてもらっている間に、すっかり仲良くなって、友達だと思ってくれていたようだ。
それにしても、私がリサのことを友達だと言った時と同じように、結局ラピスも照れている。あの時は私のことを馬鹿にしていたけど、ラピスが可愛く思えてしまった。
「ん……だけど……」
しかし……どうにもおかしいことが一つある。
「あれ? ラピスどうして私が今日やるってわかったの?」
駆け付けてくれるのは大変ありがたいのだが、この人、どうやって私が今日計画を実行すると知ったんだろう。魔法陣が完成する今の今まで、私はそんなこと決めていなかったというのに。
というか、うちに来るのすら初めてのはずなのに、どうやってこんなにタイミング良く……?
「それは……企業秘密」
「ん……? あれ……?」
おかしい、もしかして。
「ラピス、転移用の魔法陣、うちの近くに仕掛けました?」
「……さて、さっそく計画を進めましょうか」
「話を露骨に逸らさないでください、ラピス⁉」
ラピスは都合が悪くなったら私を無視して、すたすたと家に上がり込んだ。何が友達だ、ストーカーじゃないか。こればかりは計画が終わった後、なんとか防がないと。
「ふむ……ここ数日、怪しい女性がうろついていた気配がしていましたが、やはりお嬢様のご友人でしたか。うっかり殺さなくてよかった……」
「気づいてたなら報告して下さいよ、メイ! でも不審だからってすぐ殺しちゃダメ!」
こっちはこっちで物騒なことを言っている。ラピス、運がよかったね……下手するとあなた、メイに殺されていましたよ……
ラピスが居間に入ると、アリシアが驚きながら迎える。
「あれ、あなた先輩の店の裏にいた……」
「あっ……海洋都市の!」
「あれ? 二人は知り合い?」
二人の反応は意外にも、お互いを知っているかのようだった。だから私はそう尋ねたが、なぜか突然二人は焦り始める。
「い、いえ。知らないわ、こんな子。初めまして、私はラピス。リサ先輩の運命の人よ」
「あっ⁉ そうですね、私ももちろん初めましてです! リサさんの運命の人? そうだったんですね! ……素敵です! 私はアリシア、お姉さまの弟子です。ラピスさんの想い、応援させてください!」
「な、何かしらこの子。いやに物分かりがいい。貴女の弟子、とてもいい子ね、マリー」
「うーん? うん。本当に初対面なんですか? お二人は……」
なんだか二人とも何かを隠しているようだ。別に詮索したりしないんだから、知り合いなら素直に知り合いと言えばいいのに。
まあ、今はそんなことは些細なことだ。私はラピスに見てもらいながら、書斎に魔法陣を描くことにした。
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