20. まるで災害
エノテーカに光が満ち、ユリシラの体から収まりきらない魔力が激流のように溢れ出す。
10歳にしてこの魔力。
クラス10の魔族ですら、この勇者には敵わないだろう。
「勇者は、絶対に負けない!!」
力強く叫び、ユリシラがエノテーカを振り下ろす。
「【
十字の光の斬撃に、さらに斜めの斬撃が二本重なる。
その様はまるで、純白の光でできた大輪の花。
触れてもいないのに地面がめくれ上がり、大量の草と土が宙を舞う。
莫大な魔力の奔流に空気が巻き上げられ、殴りつけるような強烈な風が観戦している生徒たちを吹き飛ばさんばかりに荒れ狂う。
学生の域などとうに超えている。
現役の騎士でさえ歯が立たない。
勇者、その名に恥じぬ圧倒的な白の魔法。
「最高だぜ!! その魔法!!」
誰もがユリシラの魔法に圧倒されるなか、ただ一人、満面の笑みを浮かべてアヴェンは叫ぶ。
「なら俺も、もう少し強いのでいくか!!」
アヴェンは【
先ほどまでの【
しかしそれを、今度は黒神の力を宿した右腕で放つ。
その威力は、普通の【
「【
振り下ろした黒神の腕から、膨大な魔力の塊が放たれる。
斬撃と呼んでいいのかどうかも怪しい。
それほどに大きく、太く、厚く、あまりにも強い一撃。
街を呑み込む雪崩のような、家々を巻き上げる竜巻のような、抗いようのない災害にも似た魔力の嵐。
その衝撃に周囲の木々がひび割れ、上空の雲が散らされる。
生徒たちは飛ばされないように何とか足腰を踏ん張りながら、口をかっぴらき目の前の異常な光景を凝視していた。
その直後、黒と白の斬撃がぶつかる。
耳をつんざく衝撃音。
大地を揺らす地響き。
拮抗しているかに見えた魔法の衝突は、すぐにその勝敗を決した。
「なんで……なんでよ……!! これでも勝てないの!!?」
驚きに目を見開くユリシラ。
光の斬撃でつくられた大輪の花が、黒い魔力に侵食され消滅していく。
ユリシラの視界が、黒一色に染まる。
「【
焦りながらも、とっさにユリシラが光の壁をつくり防御する。
そこに漆黒の斬撃が突き刺さった。
轟音とともに土煙が舞い、アヴェンの魔法は徐々に霧散して消える。
少しずつ視界が晴れていくなか、ユリシラは膝をつき聖剣で体を支え息を切らしていた。
防御したとはいえ、体にそうとうなダメージを負ったようだ。
「甘く見ていたわけじゃない……それでも、ここまで強いなんて……!!」
信じがたいほどのアヴェンの強さに驚愕しながら顔を上げるユリシラ。
「……いない!?」
しかし、その視線の先にアヴェンの姿はない。
「【
その声は上から聞こえた。
ユリシラがバッと空を見上げると、天高く跳躍したアヴェンがそこにいる。
その真横に伸ばした右腕の手のひらには、凝縮された魔力の球体。
アヴェンが最初にアードロンに習った攻撃魔法の一つ、【
漆黒の魔力の球体を飛ばして、その圧倒的な質量で軌道にあるもの全てを薙ぎ払う。
しかし、今アヴェンがつくり出した魔力の球体は、習った当初とは比べものにならないほど桁違いに大きい。
あまりの大きさに、球体で日光が遮られ、丘の頂上に暗い影が差している。
「なに……あれ……!!」
ユリシラは体の痛みも忘れ、その魔法に見入った。
太陽に重なる漆黒の球体は、まるで日食だ。
その強大な【
「ちゃんと避けないと危ねえぞ!!」
空を覆う球体が、一気に地に向けて降下を始める。
「これはまずいわね……!!」
ユリシラは聖剣を杖代わりに立ち上がり、震える足を無理矢理動かして走り出した。
何とか丘に差す影の範囲内から離脱しなければ、球体の餌食となる。
ギリギリ、ユリシラが影から脱したかどうかというところで、球体が地面に衝突した。
丘が頂上から徐々に削られていく。
球体が大地にめり込み、その内部へと沈み込んでいく。
激しい地響きが鳴り、球体は地の果てへと潜り込み消えていく。
地響きが止んだ後、そこにはもう丘は存在しなかった。
大地にぽっかりと空いた巨大な穴。
その縁で、ユリシラが力なく倒れている。
何とか球体に巻き込まれずには済んだが、その衝撃で体が吹き飛ばされたのだ。
「ゆ……勇者は……負けない……絶対に……負けないんだから……!」
勇者の聖剣、エノテーカを支えに、ふらふらな体でゆっくりと立ち上がるユリシラ。
「こうなったらもう……あれを使うしかないわね……!!」
ユリシラはボロボロの体で、口から血をこぼしながら聖剣を構える。
今ユリシラの体を支えているのは、勇者としての意地のみ。
「この技が私の切り札……。勇者の最大魔法よ……!!」
「すげえな、その状態でもまだ戦うのか。その姿勢に敬意を表して、俺も全力で迎え撃つ!!」
地面に空いた巨大な穴を挟んで、二人の強者が向かい合う。
次が最後のぶつかり合い。
最後に立つのは、果たしてどちらか。
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