15. 神々の遊び

 初めての戦闘訓練は見事な快勝。


 それを称えるような眩しい青空を眺めながら、アヴェンは原っぱに寝そべった。


「教会に帰る前に、少し休憩して行こうぜ。消化不良ではあるけど、成長を実感できた喜びの方が大きいんだ。ちょっとくらいそれに浸ってもいいだろ?」



『 はい、かまいませんよ 』



 寝転ぶアヴェンのそばで、アードロンも空を見上げる。


「お前も横になれよ。たまにはこうやって日向ぼっこして、骨を休めた方がいいぜ」


 そのアヴェンの言葉に、アードロンはためらいながらも体を倒し仰向けに寝転んだ。



『 横になったのは久し振りです。 神々の使者は睡眠を必要としませんから。 しかし、こうして自然の息吹を感じ、心を落ち着けるのは心地よいものですね 』



「そうだろ。特に、魔族を倒して自分の力を確認できた後だから、なおのこと気分がいいぜ」



『 そうですね、アヴェン様は本当にお強くなられました。 ご自分で新しい魔法を開発したり、それを洗練させたりと、もう私がお教えできることは少なくなってきましたね 』



「そんなことねえよ。まだ俺よりアードロンの方がずっと強いだろ。少なくとも、俺がお前を超えるまではいろいろと学ばせてもらうぜ」


 アードロンから教わることはまだまだあるとアヴェンは思っていた。


 その言葉を受け、アードロンは思い出したように口を開く。



『 そういえばまだ話していませんでしたが、魔族は、1000年前に神々が遊びでつくったおもちゃです。 黒いスプリテュスを変形させ魔族を生み出し、それを地上世界に放ちました。 人類と戦わせ、それを見て楽しむのが目的だったようです 』



「え!? 魔族ってスプリテュスからできてんのか!? しかも黒い方って、俺が死相世界で食ったやつじゃねえかよ……」


 転生先を選ぶ際に、アヴェンは3匹の黒いスプリテュスを食べた。

 それが魔族の元だと思うと、少し吐き気がしてくる。



『 そうなると、アヴェン様の一部は魔族だと言っても過言ではありませんね 』



「それはマジで嫌なんだけど……。じゃあ、魔族もブドウみたいな味がすんのかな? スプリテュスの味はブドウに近いってアードロン言ってたよな?」


 最初にアードロンと出会ったとき、確かそんなことを言っていた。



『 そうなのかもしれませんが、さすがに魔族は口にしたくないですね。 私のスプリテュスを食べてみたいという夢は、別の形で叶えることにします 』



「まあ、そりゃそうだよな」


 魔族を食べたくないというのは当然の感覚だろう。

 アヴェンは納得して頷いた。



『 そのような経緯でつくられた魔族ですが、神々が思っていた以上に力をつけていきまして、ついに神々にすら手が届きそうなほどの強力な魔族が出現してしまったのです。 それが魔神まじん。 魔神は数えられるくらいの数しかいませんでしたが、それらの魔神を束ねる魔神王が特に強大な力を持ってしまったため、神々は魔神たちを抑えるべく、一人の人間に聖なる神の力を授けました 』



 強すぎる魔神の存在。

 それを打倒するため、神の力を与えられた人間。



『 その人間は体に宿った神の力を使い、500年前に魔神王含む全ての魔神を封印しました。 安心した神々は最後に、自ら力を与えたその人間を殺し、全てに終止符を打ったのです 』



「神ってのは勝手なやつだな。自分で強くした人間を自分で殺すなんて」



『 そうですね、後にその人間は勇者ゆうしゃと呼ばれ崇められるのですが、実はこの初代勇者、神に殺される前に子を残していたのです。 そして、神の力はその子供に引き継がれました。 そこから現在まで勇者の末裔は世代を重ね生き続けておりますが、初代の勇者に比べればその力は弱く、神々も見過ごしているようです 』



「じゃあ、俺以外にも神の力を持ってるやつがこの世界にいるってことか!?」



『 はい、現在の勇者様は10代目になりますね。 白いスプリテュスの成分を体内に宿し、微力ながら神の力を使うことができます。 ちょうどアヴェン様と同じ年齢の女性だったと記憶しています。 このままアヴェン様が力をつけていけば、近いうちに会えるかもしれませんね 』



「俺と同じ神の力を授かった人間か……。ぜひともその勇者ってのと戦ってみたいもんだな。そんで――」


 ドオォォォォォォォン!!!!


 そのとき、突如爆発音が鳴り響いた。


「なんだ!!?」


 驚いて飛び起きるアヴェン。

 慌てて周囲を見渡すと、遠くの方で黒煙が上がっているのが見える。



『 この神聖な魔力は……まさか!!? 』



 アードロンが何かに気付いて声を上げた。


 すると、アヴェンが瞬きするうちに、アードロンがどんどん黒煙の方に向かって進んでいく。


「おいアードロン、どうしたんだ!?」



『 アヴェン様、行きましょう! 思っていたよりも早く、邂逅かいこうのときが来たようです 』



「それってもしかして……!!」


 アヴェンはアードロンを追いかけた。


 一気に高まった心臓の鼓動は、おさまるどころか勢いを増すばかりだった。

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