11. 運命をぶち壊す強さ

『 本日教える攻撃魔法は二つ、【裁黒ざいごく】と【穿闇うがやみ】です 』



「おお!! 強そうな名前だな!!」


 ようやく待ちわびた攻撃魔法を会得できると思うと、アヴェンは楽しみで仕方がなかった。


 魔力操作は十分すぎるほどに習得した。

 この魔力、すなわち黒いもやを、どのようにして攻撃に利用するのか。



『 まずは【裁黒ざいごく】からです。 アヴェン様、いつものように右腕に魔力を集めてください。 しかし、決して魔力を外に漏らしてはいけませんよ 』


「わかった!」


 アヴェンは右腕に意識を向け、魔力を流し込んでいく。


 初めてこれをやったときは、全身の体力が一気に持っていかれ、制御しきれずに暴走しそうになった。

 しかし今は、少し集中するだけであっという間に腕に魔力が満ち、完璧にコントロールできる。


「これでいいのか?」



『 はい、素晴らしい魔力操作でございます。 それでは、その溜め込んだ魔力を維持したまま、腕を大きく振りかぶってください 』



 アヴェンは一粒の魔力も漏らさず、滑らかな動作で右腕を後ろに回した。



『 その腕を、空気を切り裂くように思い切り振り下ろしてください。 それと同時に魔力を全て前方に解き放つのです! 』



「行くぞ! おらああああ!!」


 アヴェンは、魔力がパンパンに詰まっている腕を勢いよく振り下ろした。

 同時に、腕の内部に凝縮していた魔力を一気に解き放つ。


 瞬間、アヴェンの腕から三日月型の黒い斬撃が飛び出した。


 黒いもやが集まり固められてできたその斬撃は、空気中を凄まじい速度で駆け抜け、100メートルほど離れたところにある木に激突した。


 衝突音とともに木の表面がバキバキと砕け、その衝撃で地面がえぐれ土埃が舞う。

 斬撃からは少しずつ魔力の粒が拡散していき、徐々にサイズが小さくなっていく。


 それでも、最後まで木を削り続ける漆黒の斬撃。

 全ての魔力の粒が空中に霧散した頃には、力強く反り立っていた木は見る影もなく、真ん中の辺りで見事に切断されていた。


「すっげええええええええ!!!」


 まさかここまでの威力があるとは思わず、アヴェンは嬉しそうに声を上げる。



『 これが、黒いもやを固めた純黒の斬撃、【裁黒ざいごく】です。 一度目から成功なさるとは、さすがはアヴェン様でございます。 教える者として私も鼻が高いです 』



「見たか!! 木がすっぱり切れちまってるよ!! 俺がやったんだよな、あれ!!」


 興奮するアヴェンを見て、アードロンは笑いをこぼす。



『 フフフ、そうですよ。 これはアヴェン様の努力によって生み出された技。 アヴェン様自身の力です 』



「もう一つの魔法も早くやろうぜ!! どういう技なんだ!?」


 攻撃魔法という直接的な強さを身につけたのがよほど嬉しいのか、アヴェンは顔を赤くして喜びを顕にしている。



『 そう焦らなくても魔法は逃げませんよ。 少し気持ちを落ち着けて、二つ目の魔法に移りましょうか。 右腕を前に突き出し、魔力を球状に集めてください 』



 アードロンの指示通り、腕から放出した魔力を手のひらに球状に収束させる。

 その膨大な魔力の塊に、空気が振動し足元の草がざわざわと揺れる。


「このくらいか?」



『 もっとです。 今のアヴェン様なら自身の身長と同じくらいまで、球体の直径を広げることができます。 怖がらずに、より多くの魔力を集めてください 』



 アヴェンはさらに腕を流れる魔力を加速させ、黒いもやの球体をどんどん大きくしていく。


 爆発のトラウマはまだ少し残っていたが、アードロンが近くにいてくれていると思うことで、その恐怖を消し去ることができた。


「これでどうだ!」



『 素晴らしいです。 それでは、その魔力の球体を思い切り前に押し出してください 』



「よし、行け!!!」


 アヴェンが腕に力を込め球体を前方に放つ。


 すると、巨大な魔力の球体がゆっくりと前に進んでいった。

 最初はスピードが遅いものの、進んでいくにつれて速度が上がり、先ほどアヴェンが切り倒した木の辺りに突撃していった。


 しかし、球体の速度は全く落ちない。

 そのまま木を根っこから吹き飛ばして、さらに奥まで進んでいく。


 球体は木々をなぎ倒しながら強引に突き進んでいき、先ほどの斬撃と同じように魔力の粒が少しずつ拡散していって、しばらく立ってから完全に消滅した。


 球体が通った後には何も残らず、えぐられた地面がその威力の高さをありありと示している。


「これもすごい魔法だな!!」



『 そうですね、これが【穿闇うがやみ】です。 【裁黒ざいごく】と原理は同じですが、質量が大きい分、威力はこちらの方が高いです。 少し発動までに溜めを必要とするのが難点ですが、アヴェン様ならすぐに慣れるでしょう 』



「確かに、魔力を集めるのに少し時間がかかるけど、練習すればその時間を縮められそうだな!」


 アヴェンはとにかく嬉しかった。


 弱さゆえに、運命に弄ばれて死んだ前世の自分。

 もっと強ければ、力があれば、理不尽な運命を変えられたかもしれないのに。


 もう二度と、貴族たちに屈したくない。

 もう二度と、運命に負けたくない。


 その思いを胸に、ただひたすらに強さを追い求め、アードロンの指導の下、努力を積み重ねてきた。


 その嘆きが、その願いが、ついに実を結んだのだ。



『 アヴェン様、これからさらに技を磨いていけば、私を遥かに超えるほど、あなたは強くなるでしょう。 さあ、鍛錬を続けますよ。 いくつか直したいところがあります 』



「わかった! 何でも言ってくれ!」


 アヴェンとアードロンは、その後も魔法の鍛錬に励んだ。


 アヴェンは成長を続ける。

 一体どこまで強くなるのか、それは誰にもわからない。


 その様子を狭間から眺め、黒神は密かに笑みを浮かべた。

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