第10話 ランニング

「もうっ、どこなのよ……呪体!」


 膝に両手をつきながら、疲労感と苛立ちに満ち満ちた声を捻り出す。かれこれ1時間弱ぐらいは東京の心臓部を走っている。国会議事堂、皇居のお堀、赤坂のテレビ局。修学旅行なら感動したであろうランドマークたちが、瞬間的に流れていった。


 気がつけば、私はもと居た場所に戻っていた。絵里奈と揉めたのが遠い過去のように思える。


「この近くなはずなんだけどなぁ……」


 呪素の気配は確かに強まっている。魔法少女アプリでも、5分前に溜池山王駅付近で確認されたと書いてある。


 まだ絵里奈に取られてはいない。そのことが救いではあったが、同時に疑問でもあった。あの絵里奈ですら苦労しているということは、相当見つかりにくい場所に居るのだろう。もしかしたら、断切魔法の届かない高層ビルの屋上とかに……。


「ううっ……」


 余計な心配が身を震わす、というか、物理的に震えた。白のインナーはもう汗でびしょびしょだ。負担軽減魔法が靴にかけられているとはいえ、このまま行くとかなり厳しいものがある。


 こんな時は集合知に頼る他ない。私はスマートフォンを操作し、グループラインを開いた。会話相手は淡路あわじちゃんだ。


『ねえ、小春。今どこに居る?』


 メッセージを送るとすぐに既読が付く。反応が早いのは淡路ちゃんのいいところだ。


『四谷三丁目だけど、どしたん?』

『D級呪体の件なんだけどさ、一緒に探してほしいんだ』

『一緒に?』

『うん、給料山分けでいいから』

『よし、乗った!』

『赤坂見附集合ね』


 OKのスタンプが淡路ちゃんから押された。これでダメだったらもうどうしようもない。


 そう思い赤坂見附駅に向かって歩こうとした時、地面を映す視界にあるものが入った。それは、点状の血痕だった。


     ※


「ごめん、遅れちゃった!」


 赤坂見附駅の地上出入口に走って行くと、スマートフォンを弄りながら立っている淡路ちゃんが居た。


「ううん、別にいいけど……なにその汗?」

「その話はあと!今はD級呪体を探さないと……」

「それなんだけど、さっき情報が更新されたみたいでさ。E級に下がったんだって」

「え?」


 淡路ちゃんが魔法少女アプリの画面を私に見せつける。確かにE級呪体、つまりは昨日の踏み潰す前のゴキブリと同じランクになってしまっている。


 ――呪素の気配が強まったのはそのせいか……。私は少し落胆した。「そんでさ」と淡路ちゃんが口を開く。


「ランクが下がってるってことはさ、呪体の生命力が低下しているってことじゃん?それなら活動範囲も狭まるだろうし、幾分発見しやすくなったと思うんだよね」

「な……なるほど?」


 流石淡路ちゃんと感心する。


「じゃあ、手分けして探そっか。私は皇居側を探すから、亞里亞は赤坂御用地の方を」

「わかった!」

 

 淡路ちゃんが計画を立てた、その瞬間だった。呪素の気配が急に強まったのだ。

 

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銀座線上のアリア〜魔法少女は歩合制〜 JS2K2X/ @Yellowkicks

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