第9話 南北線の子
「え……絵里奈……」
あまりに唐突な叫び声に、返せた言葉はそれだけだった。絵里奈は紫色のツインテールをキラッキラにデコレーションした指でクルクル巻きながら、いつものツンケンぶりを押し通す。
「気安く呼び捨てにしないでくれる?」
「あっ、ごめんなさい……」
私は思わず謝罪してしまった。本当は悪くないはずなのに……というか、あれ?
「絵里奈、さんって、出動報告書きました?」
「は?書いてないけど?」
出動報告は魔法少女の努力義務のひとつだ。罰則があるわけではないが、ほぼ全ての魔法少女が書くようにしている。
「あんなもん書く必要ないでしょ?魔法少女界は年功序列。ほら、どいたどいた」
「いや、でも先に出動報告を書いたの私ですし……」
「だ、か、ら、あんなもん書いてんのは生真面目さんかただの馬鹿だけ。あたしはどっちでもないから」
絵里奈は私より2歳上の魔法少女で、適正呪体はB―級と、間違いなく格上の存在だ。恐らく、日本中の同年齢の魔法少女と比べても、上位に立っているだろう。
一方で、その高圧的で傲慢な態度、そして格下の呪体を狩る姿勢は東京23区内ではかなり悪名高い。南北線の名前から『南北朝』というあだ名が付くほど、と言えばわかりやすいだろうか。
「まあ、そんなわけで。その呪体はあたしの経験値にさせてもらうから……って、あ〜!!」
絵里奈が地面を指差し、大きく口を開いて再度叫ぶ。
「あ」
指の差した場所を見た私は、ただ一文字だけ呟いた。そこにはもう既にカラスの姿はなかった。
「あんたのせいよ!」
啖呵を切る絵里奈に、ただただ困惑する。
「私のせい、ですか?」
「そうよ!あんたがさっさとどかないから、
――いや、あなたが叫んだせいでしょうに……。と、心の中で思いながら聞き流す。まるでパワハラ上司みたいに責め立てる彼女の姿には、可愛い髪型やケアの行き届いているであろう肌も水泡に帰してしまった感じがする。
「……まあいいわ。あたしはもう呪体に記号魔法打ち込んであるし、場所だってわかってるから」
「記号魔法?」
「はあ?そんなことも知らないの?魔法百科でも引いてなさい」
そう言うと彼女は、首都高の高架の方へと走り去ってしまった。
――相変わらず傍若無人だなぁ……。多分、
……てか、私も追わないと給料がなくなるじゃん!走り去った絵里奈の姿が見えなくなった頃、私はようやくその事実に気がついた。
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